巨大な影
そして、翌朝、
「お目覚めのようだな。昨日はよく眠れたかな?」
最初に耳に飛び込んできたのは、ブラックシャドウの声だった。
「まあね。そういえば、夢の中であなたと……」
言いかけたところで、わたしは口をつぐんだ。「夢の中で」という枕詞付きでも、「ブラックシャドウと黒ずくめの男が密談していた」とは言わない方がよかろう。
「そうか…… ということは、あなたもようやく私の魅力に気付いたようだな」
ブラックシャドウは気分をよくしてテントを仕舞い始めた。本当に勘違いしているのか、単に言ってみただけなのかは分からない。でも、訂正することはないだろう。
「むにゅむにゅむにゅ…… マスター、おはよう……」
やがて、プチドラも目を覚まし、何やら重い荷物でも頭に乗せているように、ノロノロ、フラフラと首をもたげた。
わたしたちは手早く朝食を済ませると、ラブリンスク村に向け、荷馬車を走らせた。ここは、既に巨人の国の領域内。右手には、北の大河が近くなったり遠くなったりを繰り返している。隻眼の黒龍に乗って空から見下ろせば、クネクネと蛇行を繰り返している様子が分かるだろう。
この日もホフマンは、じっと腕を組んだまま、ひと言も喋らない。こちらから話しかける義理もないし、そっとしておいてやろう。
それよりも、気になるのは、昨夜、断片的に聞こえてきた話。「あの親子に間違いない」とか、「あんなところでドジを踏まなければ」とか、「ドラゴニア候が武装盗賊団に金を払って御落胤を探させている」とか……
近いうちに御落胤を捜し当てることができそうな口ぶりだったけど、その時には、やはりブラックシャドウと対決することになるのだろうか。それに、今度はドラゴニア候も御落胤争奪戦に参加することになるのか。
「マスター、どうしたの? さっきから、黙りこくって……」
プチドラがわたしの肩に乗っかり、小声でささやいた。
「なんだか、もっと、ややこしい話になりそうなのよ。いつものことだけどね」
わたしはプチドラを抱きかかえるようにして、小声でヒソヒソ(昨夜の状況を説明)……
そうしていると、突然……
荷馬車は急ブレーキをかけたように、カクンとスピードを落とし、急停止。わたしもホフマンもバランスを崩し、荷台に倒れこんだ。
「一体、どうしたんじゃ!」
ホフマンが怒気を含んだ声で叫ぶ。
「すまない。しかし、あれを見てくれ!」
ブラックシャドウは舌打ちして言った。見ると、前方から、電信柱の高さくらいの巨大な影が数体、ゆっくりとこちらに近づいてきていた。




