エルフの発想
何時間、帝都の街中をさまよったのか分からないが、ともあれ、歩き疲れてフラフラになりながらも、どうにか屋敷にたどり着くことができた。ただ、屋敷の玄関でいきなり倒れこんだものだから、突然の来訪とも相まって、屋敷の中は大騒ぎ。でも、それはそれとして……
わたしはリビングで冷たい水を飲み、少し落ち着いたところで、プチドラを抱き、誰にも見つからないよう、こっそりと「開かずの間」に向かった。そして、プチドラの魔法の呪文で「開かずの間」のドアを開け、さらに、床に設けられたドアから地下への隠し通路を通って、ダーク・エルフの隠し部屋に。
隠し部屋の前まで来ると、通路まで笑い声が響いていた。ティータイムでくつろいるようだ。ならば好都合。ドアを開けると、果してガイウスとクラウディアが談笑しているところだった。机の上には、紅茶とお菓子のほか、地図が広げられている。一応、仕事(?)かテロ(!?)か、打ち合わせも兼ねているのだろう。
「あら! カトリーナさん!!」
クラウディアは、立ち上がって、両手でわたしの両手を握り、
「うれしいわ。こんなに早く逢えるなんて。でも、一体、どうして帝都に?」
「実は、ちょっと面倒なことになってね。帝国宰相から、なんだか微妙な頼みを引き受けさせられたの」
「ほぉ、『微妙』というと、噂話の関係かな?」
さすがにガイウスは勘がいい。
「そうなのよ。いるかいないか分からない御落胤を捜さなければならないの。困ったわ」
「なんだか大変なことのようだが…… もしよければ、我々が手伝おう」
「ありがとう。でも、何度もタダで働いてもらうわけにいかないから、今回は気持ちだけ、ありがとう」
ダーク・エルフが手伝ってくれれば、間違いなく、仕事は楽に進むだろう。でも、本音としては、あまり関与してもらいたくない。仮に、正真正銘、本物の御落胤を帝都に連れて帰ることができたとすれば、御落胤を人質にして、「すべてのエルフの母」との人質交換を要求するという選択肢が発生することになる。ただ、そんなことをされて、わたしとダーク・エルフがつながっていることが世間に広く知れ渡ると、わたしの立場も危うくなり、場合によっては、「皇帝の敵」あるいは「帝国の敵」みたいに、逮捕されるか追討軍が派遣されるかもしれない。
ところが、この二人……
「でも、本当に御落胤なんて、いるのかしら? もし、いたら…… それこそマンガだわ」
クラウディアはおかしそうに笑いながら、紅茶をすすっている。
「どうかね。我々としては、『すべてのエルフの母』を救出できれば、どちらでも構わないがね。」
と、ガイウス。ガイウスもクラウディアも、御落胤のことに関しては、まるで他人事のような話しぶりだ。せっかくのチャンスなのに、エルフには、そもそも、人質を取とうという発想がないのだろう。