Uターン
わたしたちは荷物をもって小さな舟に乗り込んだ。ブラックシャドウが艪を動かすと、舟はゆっくりと動き出す。漁師は心細そうな顔つきで、いつまでもこちらを見つめていた。
「うまくいったな。フフフ……」
港を出ると、不意に、ブラックシャドウが笑い声を上げた。
「どうしたの?」
「あれを見るがいい。予想通り、あの漁師が武装盗賊団に問い詰められている」
桟橋の上には武装盗賊団と漁師の姿が見える。「口外しません」とは言ってたけど、武装盗賊団にすごまれたら、あっさりと口を割ってしまうだろう。
やがて、武装盗賊団は漁師をスマキにして海に投げ入れると(用済みということだろうか)、「北の海鮮横丁」に向けて走り去っていった。仲間を呼ぶつもりだろう。
「前方には海賊、後方には武装盗賊団というわけね。ブラックシャドウ、あなた、何を考えているの?」
「確かに、あのいでたちは武装盗賊団じゃが……」
ホフマンも、ようやく容易ならざる事態に気付いたらしい。むしろ、(あり得ないほどに)気付くのが遅すぎるくらい。
ブラックシャドウは無言のまま、巧みに艪を操り、船の方向を変えた。すると舟はUターン、海賊のいる島に背を向け、港に向かって動き出した。今度は引き返す?
「ブラックシャドウ、いい加減にしなさいよ。あんまり人をおちょくってるようだと……」
「ちょっと待ってくれ。岸に着いたら説明するから。とにかく今は、急いで戻らないといけない」
本気でぶっ殺してやりたい気分。しかし、ブラックシャドウはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべ、快調なペースで舟を進めるだけだった。
やがて舟は、もとの港に戻った。
ブラックシャドウは舟を桟橋に横付けにすると、
「こっちだ!」
と、駆け足で、港に設けられた倉庫群に急ぐ。なお、倉庫といっても、近代的な巨大建築ではなく、木製の小さな小屋程度のものだ。
「この辺りでよかろう」
ブラックシャドウは、シーフのスキルを使ったのだろう、倉庫のカギを一瞬のうちに開け、その中に踊りこんだ。わたしとホフマンも、わけが分からないまま、ブラックシャドウに続く。
すると……
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……
これまで何度聞かされたことか、またもや不気味なコーラスが、遠くから響いてきた。




