再び港にて
荷馬車は進む。後方からは、灰色マントの数名の武装盗賊団が、一定の距離を保ちながら追跡中。先刻から、なんとも言えない緊張感を強いられる場面が続く。でも、ブラックシャドウはそしらぬ顔、ペースを乱さずに荷馬車を走らせている。また、ホフマンは入念にバトルアックスを磨いている。(あり得ないようだが)そちらは本当に気付いていないようだ。
やがて、荷馬車は町を東西に貫く北の大河の畔を通り、「北の海鮮横丁」に到着。ここは今日も盛況で、荷馬車のスピードがガクンと落ちた。
ちらりと後方を振り返ってみると、武装盗賊団の周囲はぽっかりと穴が開いたように人通りが途絶え、自らの位置がバレバレ。でも、武装盗賊団は、そんなことはまるで関係ないように、荷馬車の後方30メートルくらいの距離でピッタリと追跡を続けている。
「本当に大丈夫かな……」
プチドラはわたしの肩に乗っかり、心配そうにささやいた。
「どうかしら。大丈夫そうには見えないわね。ブラックシャドウは自信たっぷりだけど……」
ブラックシャドウは『北の海鮮横丁』の人波を縫うように、ゆっくりと荷馬車を走らせている。武装盗賊団がいかに非常識な集団としても、まさか、こんな雑踏の真ん中で攻撃を仕掛けてくることはないと思うけど……
やがて、馬車は「北の海鮮横丁」を抜け、漁港に到達。いくつも桟橋が海に突き出し、漁船が何艘も係留されていた。追われているせいだろうか、黒っぽい海水面と灰色の空は、いつも以上に陰鬱な感じがする。
「さあ、着いたぞ」
ブラックシャドウは荷馬車を降りた。すると、武装盗賊団の面々は、大慌てで付近の物陰に身を隠す。あれだけ丸分かりでも、気付かれていないと思っているらしい。
「ブラックシャドウ、これからどうするの?」
「港は何をするところか、説明するまでもないと思うが」
ブラックシャドウは氷のような視線でわたしを一瞥すると、近くに歩いていた漁師を捕まえ、
「舟を貸してくれ。イヤとは言わさん。しかし、使用料は前金で支払う」
そして、金貨を何枚か握らせた。
漁師は、ブラックシャドウのただならぬ気配に脅えたのか、
「はっ、はい、お貸しします。お貸ししますとも……」
わなわなと体を震わせながら、わたしたちを自分の舟まで案内した。舟は、わたしたちが乗れば満員になるくらいの(「ボート」と言ってもよい)非常に小型のもの。ブラックシャドウは舟から漁具を降ろすと、
「おい、漁師さんよ、我々は、これから、沖合いの島まで海賊退治に行く。しかし、このことは、誰にも言ってはならんぞ」
「分かっております。けっして口外しませんから」
漁師はおずおずとして言った。ただ、この場では「口外しない」と言っても、誰かに脅されたら、簡単に白状してしまうのではないか。




