追跡は予定のうち
クラーケンの宿を出ると、店先には荷馬車が停まっていた。
「さあ、これに乗って」
と、ブラックシャドウ。今回は用意がいい。ホフマンは意気揚々と鼻歌交じりに、でも、わたしは不安一杯に、荷馬車に乗り込んだ。ちなみに、プチドラは落ち着きなく、周囲を見回している。
「さあ、海賊退治に出発だ」
ブラックシャドウがラバに鞭を当てると、荷馬車は静かに動き始めた。
しばらくすると、プチドラがこっそりとわたしの耳元でささやく。
「誰かにあとをつけられているような……と言うか、これだけあからさまなのは、珍しいくらい」
後ろを振り返ると、(バケツかゴミ箱のような)円筒型の兜をかぶり、灰色のマントを身に着けた数名の集団が、一応身を隠しながらのつもりだろう(でも丸分かり)、30メートルくらい後方で、荷馬車を追跡している。
「ブラックシャドウ、分かってると思うけど……」
「当然、気がつかないはずはない。ヤツら、予想通りに動いてくれている」
武装盗賊団に見つかるのは予定のうちらしい。
今回は、いきなり出だしから緊張を強いられるようだ。武装盗賊団の追跡を許して、どうしようというのだろうか。
ただ、疑問と言えば、こればかりではない。
「いくつか質問があるんだけど、いいかしら?」
「質問? 答えられることなら答えるがね」
「それじゃ、一つ目。前から聞こうと思っていたんだけど…… あなたは武装盗賊団に追われてる身でしょう。だったら、その元締めの「カバの口」と一応つながりのあるクラーケンの宿に宿泊して、オヤジ(宿のオーナー)に顔をさらして大丈夫なの?」
「問題ない。あのオヤジなら、武装盗賊団に尋ねられても、『記憶にない』とか言って、適当にごまかすだろう。面倒なことに関わりあいたくないのが人情だからね」
言われてみれば、確かに、オヤジはそのようなことを言ってたような……
「二つ目、これは根本的な疑問なんだけど、どうしてわたしたちが海賊退治なんかするのかしら。武装盗賊団が海賊の要塞島を攻撃するという話くらい、あなたなら知ってるでしょう。何もわたしたちが退治しなくたって……」
「知っている。しかし、実は、私に少し考えがあってね。そのうち分かるから、ここは私を信じてほしい」
これまでの行状からすれば、『信じてほしい』と言われても、とても無理な話だ。
でも、ホフマンは自慢のバトルアックスを磨きながら、
「まあ、いいじゃないか。海賊退治は、最終的にはみんなで決めたことじゃ」
確かに、形のうえでは民主的な手続を踏まえてはいる。
ただ、わたしから言えること…… ホフマンも、相当に単純な性格なのだろう。




