海賊討伐依頼
今日はいろいろなことがあった。町に戻ってから、クラーケンの宿でアンジェラの知的障害の兄に襲われたり、買出しに行った港で海賊の話を聞かされたり、宿に武装盗賊団第5装甲騎兵軍がやって来たり、ブラックシャドウの正体が少しずつ分かってきたり、(怪しいところはあるが)御落胤の居場所が判明したり……
わたしがベッドにゴロンと横になると、プチドラはわたしの胸に乗っかり、
「マスター、さっきのブラックシャドウの話は本当なのかな」
「どうかしら。本質的にいかがわしい人だから、話を鵜呑みにはできないけど、とりあえずカレについていく以外ないでしょ。わたしたちに独自の情報はないし……」
「そうだね。う~ん、しょうがないかなぁ」
「でも、いいのよ。もらえるものはすべて、最初にもらってあるから。御落胤捜しは、単なる『アリバイ作り』と考えましょう。危ない時にはいつでも逃げられるようにしておけばいいわ」
「『アリバイ』作りって……」
プチドラは、あんぐりと口を開けた。なお、わたし的にも、なんだか、気分的にはスッキリとしないものはあるが……
翌朝、1階の食堂に降りていくと、ブラックシャドウとホフマンが朝食を済ませたところだった。
「夕べはよく寝られたかね?」
と、ブラックシャドウ。調子を取り戻したのか、氷のように冷たい眼光をわたしに向けている。
「とりあえず朝食をとるがいい。その間に、ちょっとね……」
ブラックシャドウは、立ち上がると、カウンター横の大きなボードに向かった。そして、貼り紙をかき分け、
「ああ、これだ。海賊退治依頼……」
と、貼り紙を1枚はがし、カウンターの向こうにいるオヤジ(宿のオーナー)に示す。なんだか気になるので、わたしもカウンターまで行ってみた。
オヤジは一旦カウンターの奥の部屋に引っ込み、電話帳のように分厚いノートのページをめくりながら戻ってくると、目を丸くして、
「あんたら、本当にやる気かね?」
「もちろんだ。海賊を島から追い払えば、確実に金貨1万枚を受け取れるのだろうな」
「支払いは確実だが、本当に、あんたたち3人で海賊をやっつけるのかね? 大丈夫かね??」
ブラックシャドウが示した紙片は、ツンドラ候と「北の海鮮横丁自治委員会」の連名による海賊討伐依頼(グレートエドワーズバーグに程近い沖合いの島を不法占拠している海賊を追い払うべし(報酬は金貨1万枚))。どうでもいいことだけど、ツンドラ候が依頼主なんて……
「分かったよ。フロスト・トロールをやっつけた豪傑なら、ひょっとしたら……かもな」
オヤジはボソッとつぶやくように言った。でも、このオヤジは物覚えが悪いのではなかっただろうか。でも、その割には、「フロスト・トロールを皆殺しにした」みたいな、一度しか言ってないことをしっかりと覚えている。このオヤジも、一体、何者だか……




