唐突過ぎる秘密情報
部屋の中にいたのは……
「どうしたのかな? まさか、仲間の顔を忘れたとでも??」
どのようにして侵入したのか知らないが、ランプの明かりに照らされ、ひとりでトランプ占いに興じているブラックシャドウだった。
神出鬼没なヤツだと分かってはいたが、さすがに少し頭にきて、
「あなた、こんなことして…… 覚悟はできてるでしょうね」
「いや、失礼。私としても、伊達や酔狂で、このような無法を働いているわけではないのだ。それだけは理解してほしい」
「言いたいことはそれだけ?」
わたしは右手を高く差し上げ、魔法の呪文を唱えるフリ。
すると、ブラックシャドウは慌てて後方に退き、その際、バランスを崩して尻もちをついて、
「そう興奮しないで、まずはこちらの話をきいてほしい。私をぶっ殺すのは、その後でもいいだろう」
ブラックシャドウによれば、余りにも唐突過ぎるけど、とうとう御落胤の居場所が明らかになったとのこと。御落胤は、グレートエドワーズバーグの町で家族とともにひっそりと生活していたが、数日前に港で遊んでいたところ、最近のさばりだした海賊に拉致され、今は町の沖合いの小さな島(港から見えた島影のひとつで、海賊によって、要塞化されている)に囚われているらしい。
なんだか、このところ話の展開が急すぎて、ついていくのが大変な感じもするが、
「でも、どうしてあなたがこんな秘密情報を知ってるの?」
「私はフリーのエージェントでね。実は、独自の情報網も持っているんだ。武装盗賊団の連中が1階の食堂で食事していったようだが、私が何者かはヤツらから聞かされたのではないかな?」
ブラックシャドウめ、こっそりと聞き耳を立てながら、食堂の様子を盗み見ていたのだろうか。いやらしいヤツ(でも、わたしもプチドラを使っての盗み聞きはお家芸なので、他人のことは言えなかったりする)。
「連中が言ってたわ。あなたを『ボコボコにしてブッ殺して小便を引っ掛けて』とか。一体、武装盗賊団との間で何があったの?」
「簡単な話だ。私が任務遂行上の都合で武装盗賊団のメンバーを殺害したのだが、その際、ヤツらに面が割れてしまった。それ以来、連中は私を追っているというわけだ」
変装して偽名を使えば簡単にバレないと思うけど、カレには彼なりのこだわりや事情があるのだろう。もしかすると、いつぞや北の大河の畔で見た灰色マントの死体は、ブラックシャドウの仕業かもしれないが、確認する気にはならない。
「納得していただけたかな。今後の方針については、明日の朝、食堂で話すことにしたいが……」
「納得はしないけど…… わかったわ。それじゃ、明日の朝」
ブラックシャドウは物音ひとつ立てることなく、部屋を出て廊下の暗がりに消えた。




