宿のオヤジと武装盗賊団
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……
コーラスはますます大きくなっていく。歌声に混じって、馬のいななきやひづめの音も響いてきた。すぐそこまで迫っているのだろう。
やがて、コーラスはピタリと止んだ。こうなると、やはり……
入り口のドアが静かに開き、
「おい、オヤジ、久しぶりだな」
思ったとおり、(バケツかゴミ箱のような)円筒型の兜をかぶり、灰色のマントを身に着けた集団が、ゾロゾロと店内に入りこんできた。
「久しぶりって……本当にそうか? それはともかく、他の客の迷惑になることはやめてくれよ」
カウンターから、もっさりとしたオヤジ(店のオーナー)が、ゆったりと身を乗り出した。気が大きいのか鈍感なのか、まったく動じている様子はない。
「ところで、あんたら所属はどちらかね。みんな同じコスチュームだから、区別がつかないんだよな……」
オヤジは眉間にしわを寄せ、独り言のように言った。動じていないどころか、余裕さえありそうだ。
「我々は武装盗賊団第5装甲騎兵軍だ。最近何度も来ているだろう。本当に忘れっぽいオヤジだな」
「もの覚えの悪さは親譲りでね。その装甲騎兵の皆さんが、一体、なんの用で?」
「客に向かって『なんの用』はないだろう。とりあえず、食事をさせてほしいのだ」
オヤジはいぶかしげに武装盗賊団第5装甲騎兵軍の面々を見回すと、
「客なら適当に空いてる席に座ってくれ。すぐ注文取りにいくから」
武装盗賊団第5装甲騎兵軍は、総勢20人ばかり。空いているテーブルはすぐに埋まり、何人かは他の客と相席になった。わたしのテーブルにも灰色マント(オヤジと話をしていた男)がやってきて、
「よろしいか?」
「どうぞ。わたしは別に構わないけど」
「ありがとう。では、失礼して……」
灰色マントの男は、腰掛けると、(バケツかゴミ箱のような)円筒型の兜を脱いだ。彫りの深い顔に、ピンと上を向いた口髭が特徴的だ。歳は50前後だろうか。なかなか渋い。何気なく男の顔を眺めていると、
「どうしたのかな? 我輩の顔に、何か?」
「いえ、別に……」
武装盗賊団は、ブラックシャドウからとんでもない無法集団と聞かされていたが、実際のところはどうなのだろう。意外と紳士的なところがありそうな感じもある。ともあれ、連中がここにいるしばらくの間、連中を観察することにしよう。




