近づく武装盗賊団のコーラス
わたしはプチドラを抱き、何食わぬ顔でブラックシャドウに近づいた。
「ただいま。あなたたち、昼間から今まで飲んでたの?」
ホフマンは机の上に大きな顔を横たえ、真っ赤な顔でいびきをかいている。ドワーフは酒が強いのが普通だけど、ブラックシャドウはそれ以上に強いのだろうか。あるいは、怪しげな薬を使ってホフマンを眠らせたのか。
ブラックシャドウはニヤニヤと薄笑いを浮かべながら、
「ああ、今戻ったのかね? 戻ったなら、すぐに声をかけてくれてもよさそうなものだが。お互い、不信を招くようなことは止めにしたいものだな」
なんだか、こちらの手の内を見透かされているようで、気味が悪い。有り得ないこととは思うけど、プチドラのスパイ行為が既にバレてたりして……
「それはともかく、夕食前に、このオッサンをなんとかしなければな」
ブラックシャドウが言った。ホフマンの巨頭は小さなテーブルの3分の1近くを占領している。このまま料理を注文しても、置き場に困りそうだ。
ところが、その時、
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……
遠くから、この前からの不気味なコーラスが響いてきた。武装盗賊団だ。耳に手を当てて、じっと耳を澄ましていると、だんだんとコーラスの音が大きくなっていく。近づいてきているのだろう。
ただ、考えてみれば、秘密組織がわざわざ自分の存在を知らせるのも妙な話と言える。武装盗賊団とは、もともと自己顕示欲の強い人たちの集まりなのかもしれない。
「ねえ……」
わたしはブラックシャドウに顔を向けた。しかし、彼は既にその場にいない。忽然と姿を消していた。
「どこに行ったのかしら。プチドラ、あなたも見てなかった?」
「うん、武装盗賊団 のテーマソングに気を取られている間に、いなくなってたよ」
これほど徹底して武装盗賊団を避けるということは、ブラックシャドウのやつ、ひょっとしたら、武装盗賊団との間で揉め事を抱えているのかもしれない。
ちなみに、食堂の他の冒険者たちも動揺していた。ある者は不安げに周囲をキョロキョロと見回し、別の者はせわしなくテーブルの周囲を歩き回っている。
いわゆる「萌え」を意識したメイド服のウェイトレスも、表面上は平静を装っているが、なんだか落ち着きがない。クラーケンの宿が「カバの口」にいわゆる「みかじめ料」を払っているなら、店に迷惑がかかるようなことはしないだろうが、どうだか……




