ガセネタに関する釈明を
わたしとホフマンは部屋(なお、当然ながら、別々の部屋)に貴重品以外の荷物を置き、1階の食堂でくつろぐことにした。ホフマンは、昼間から北方特産の蒸留酒で顔を真っ赤にしている。
しばらくすると、用を済ませたブラックシャドウが店に到着し、
「お待たせ。ほぉ、なかなかの飲みっぷりだね」
と、自らも酒を注文し、ホフマンの仲間に入った。でも、わたしは遠慮しておこう。それよりも……
わたしは立ち上がり、カウンターに歩み寄った。ツンドラ候ほどではないが、体の大きなオヤジ(店のオーナー)がカウンターの向こうでぼんやりと突っ立っている。
オヤジはわたしに気付くと、頭をわずかに下げ、
「さっきは、すまんかった。見てのとおりだが…… つまり、そういうことだ」
「いえ、『お兄ちゃん』のことなら、別に、どうということは……」
「そうか。それならいい」
オヤジはプイと横を向いた。無愛想なのか口下手なのか、とにかく、あまり好きになれそうにないタイプ。
「わたしとしては、『お兄ちゃん』よりも、地獄谷のガセネタについて、釈明を求めたいわ」
「ガセネタって? ああ、そうか、あの情報はガセネタだったのか」
「御落胤はいなかったわ。地獄谷にいたのはフロスト・トロールだけよ。もっとも、フロスト・トロールはわたしたちで皆殺しにしちゃったから、今は誰もいないけどね」
「へっ? 『わたしたち』って……て、いうことは、お前さんと、あそこで飲んでるふたりで? そんな馬鹿な、いくらなんでも…… ふっふっ」
オヤジは微妙に顔を引きつらせ、笑いをこらえるのに苦労している様子。わたしの話が信じられないらしい。不愉快だけど、笑われるのは仕方がないと思う。何十人ものフロスト・トロールをたった3人で全滅させるなんて、普通なら、大法螺もいいところだろう。
やがて、カウンターの奥からアンジェラが姿を見せた。オヤジが身をかがめると、アンジェラは背伸びして、オヤジの耳元で何やらボソボソとささやく。なんとなく、感じとしては、『お兄ちゃん』関係の話っぽい。
話が終わると、オヤジは「はぁ~」とため息ひとつして、
「そうか。あいつは、あんな調子か…… でも、しょうがないな」
そして、オヤジは何かを思い出したように、お金の入った袋をアンジェラに手渡した。
「アンジェラ、悪いが、もう一度おつかいを…… 港まで、魚の買出しを頼む」
「分かりました、お父様」
アンジェラは、わたしを見ると深々と頭を下げ、きびきびとした動作で店を出た。
わたしは、飲み比べをしているホフマンとブラックシャドウを横目に、
「港か…… 今はヒマだし……」
などと独り言を言いつつ、プチドラを抱いて(当然、貴重品も持って)、アンジェラを追った。




