帰り道
その後、わたしたちは適当な場所を見つけて休息し(つまり、野宿)、次の日から、グレートエドワーズバーグまでの長い道のりを歩き始めた。町にたどり着くまでを日記風に綴っていっても仕方がないので、要点をかいつまんで記すことにしよう。
帰り道も、行きと同様に、荒地が延々と続いていた。でも、わたしたちにとってラッキーだったのは、海沿いのひなびた寒村で荷馬車を調達できたこと。この時も例によって、ブラックシャドウが「ふたりは先に進んでいてくれ」と自分ひとりで村に入り、しばらくすると頑丈そうな荷馬車を走らせて追いついてくるというパターン。
その際、プチドラにこっそりとブラックシャドウを追跡してもらったが、
「ダメだった。簡単にまかれちゃったよ。もしかすると、気付かれていたのかもしれない」
誇張して言えば、プチドラがブラックシャドウを見失って「アレ?」と思った瞬間には、既にブラックシャドウが荷馬車に乗ってラバに鞭を当てていたとか。
「あのブラックシャドウという人、シーフかアサシンかニンジャとしては、並の実力じゃないと思うよ」
プチドラは御者台のブラックシャドウを横目で見ながら、わたしの耳元でささやいた。
ますます怪しさが増していくばかりのブラックシャドウ、一体、何者だろう。御落胤を見つけ出して懸賞金をせしめるという目的も、本当かどうか分からなくなってきた。
疑い出したらきりがないけど、それはそれとして、荷馬車を手に入れたことで移動速度も上がり、気分も少しは楽になった。
ホフマンは行きと同じように、
……Dw@ischl#xd, Dw@ishl#xd, ov~p A||S ov~p……
……poh, 0ep G~jev| , p%ei>u@tzeh Br@……
意味はサッパリ分からないが、気持ちよさそうに故郷の歌を歌っている。この人は朴訥とした雰囲気ながら、裏表がなさそうで、安全牌と言えそうだ。
一方、ブラックシャドウは、油断なく周囲に目をやり、時々立ち上がっては、遠くを見渡している。行きに比べると落ち着きがないようだ。何かを恐れているみたいな。
「どうしたの? この前みたいに武装盗賊団が近くにいるの?」
「いや、一応、その可能性も含め、あらゆる事態を想定しておかなくてはね」
ブラックシャドウは言葉を濁した。なんだろう、なんだか少し、怪しいような……
わたしはさらに追及し、
「あなた、もしかすると、武装盗賊団や『カバの口』との間で、何か問題を抱えているのかしら?」
「いや、別に」
ブラックシャドウは極めて簡潔に打ち消した。でも、本当のところは、どうなってることやら……
数日間、荷馬車に揺られ、ようやくグレートエドワーズバーグの北門に到着。気分の問題かもしれないが、今回は本当に長旅だった。




