一難去って
ホフマンにちらりと目をやると、ホフマンは地面に伏せた姿勢のままバトルアックスを握り、もしもの場合に備えていた。一方、ブラックシャドウも身じろぎひとつせず、灰色マントの集団の動きを凝視している。
武装盗賊団は全員で20人程度。このくらいなら、プチドラの魔法で全滅させてしまうのが一番簡単だろう。
「プチドラ、いい?」
「うん、いよいよ危なくなればね。でも、相手の正体というか、その実力はよく分からないし、相手がボクたちに気がつかないで立ち去ってくれるなら、それに越したことはないよ」
今日のプチドラは慎重派らしい。もっとも、灰色マントの集団にはわたしやプチドラの姿が見えないので、こちらが動かなければ、(少なくともわたしとプチドラは)気付かれることはないだろう。
しばらくすると、灰色マントのリーダーが大声で叫ぶ。
「おい、おまえたち、大事な使命を忘れるな。こんなところで、いつまでも道草を食っているヒマはないぞ」
すると、付近を捜索していた灰色マントたちは、すぐさまリーダーの周囲に集結した。そして、ローマ式に右手を高く上げて「オー」と雄叫びを上げると、それぞれ自分の馬に乗った。
「それでは、進軍を再開する。テーマソングを流せ」
リーダーの合図で、ある者はラッパを吹き、別の者はドラム(太鼓)を叩いた。さらに、全員で声を合わせ、
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……
不気味なコーラスを奏でながら、山道を地獄谷に向け、馬を走らせていった。
コーラスの声が遠ざかると、
「やれやれ」
ホフマンはバトルアックスを杖の代わりにして体を起こした。ブラックシャドウも立ち上がり、衣服についた枯葉や土を払う。プチドラが魔法を解くと、わたしとプチドラは再び姿を現した。
「姿を消せるなら、最初に言ってほしいものだ」
ブラックシャドウはわたしを見ると、小声でポツリと漏らした。もし、荷馬車とラバを森に乗り入れて魔法で隠したとすれば、わざわざラバを殺し荷馬車を壊す必要はなかったのだから。でも、最初になんの説明もなくラバを殺したのはブラックシャドウだから、文句を言われる筋合いはないと思う。
ともあれ、武装盗賊団は去り、危難も去った。交通手段を失ってしまったのは痛いけど、ここは、なんとか頑張るしかない。




