山道の不気味な調べ
地獄谷での御落胤捜索は、結局、徒労に終わった。いい加減な情報屋め、「時間と予算を返せ」と言いたくなる。でも、ブラックシャドウとホフマンは、腹を立てていないし落胆してもいない。
ホフマンは、事もなげに言う。
「情報が『当たる』確率は3分の1程度かな。まあ、気長に頑張ることじゃ」
なんとものんびりと、また、ゆったりしたことだが…… でも、この世界では、これくらいが標準なのだろう。
わたしたちは荷馬車に乗り、来た道を、今度は反対方向に戻り始めた。
荷馬車は山道を進む。周囲には、(当然だけど)来た時と同様、針葉樹の森が広がっている。ブラックシャドウによれば、モンスターや山賊に襲われる可能性があるので、一応、臨戦態勢でいる必要があるとのこと。でも、実際にいるかどうか分からない敵に備えるというのは、それだけでも神経が疲れる。いつもなら隻眼の黒龍に乗って、さっさと引き揚げるのだが……
「まあまあ、マスター。普通に旅をするなら、こんなものだよ」
プチドラは、わたしの耳元でささやいた。言われなくても、理屈としては分かってるけど、ガセネタをつかまされたこともあるし、なんだかモヤモヤモヤッとしたような気分。
日は西に傾き、もともと薄暗い森は、さらに暗くなっていた。できれば、日没前に山道を抜け、街道に出ておきたいものだが……
御者台のブラックシャドウは、ラバに鞭を当て、
「このペースなら、なんとかなりそうだな」
ブラックシャドウは、当てになるかどうかは別として、楽観しているようだ。
その時、プチドラがわたしの肩に飛び乗り、耳をピンと立て、唸り声を上げた。なんだろう。また、誰かに監視されている気配を感じたのだろうか。
「ちっ! マズイことになった」
さらに、ブラックシャドウも感情のこもった声を上げた。これは、今までになかったことだ。
そうこうしているうちに、前方から、
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……
初めて耳にする言葉がメロディーに乗って流れてきた(ちなみに、ひらがな表記すると、上記のごとく)。コーラスのようだ。管楽器や打楽器の音なども聞こえる。地の底から響いてくるような感じがして、かなり不気味。
「これは、しかし…… くっ! どうしたものか!!」
ブラックシャドウは狼狽していた。顔を見れば、ありありと分かる。これは、ただ事ではなさそうだ。




