帝国宰相からの「お願い」
「実はな……」
帝国宰相は、重々しく口を開いた。
「ひとつ、頼みがあるのじゃ。こちらの都合ばかり押し付けるようで申し訳ないが、これは、そなたでなければ頼めないことなのでな」
「はあ…… 一体、それは、どのような?」
「そなたの耳にも入っているかも知れぬが、このところ、帝都で奇妙な噂が流れておる。北方のツンドラ候の領地あるいは巨人の国に、皇帝陛下の御落胤がいらっしゃるとか」
「噂は知っていますが、とても本当のこととは思えません。まさか、帝国宰相、その話を真に受けて?」
「いや、そういうわけではない。本来なら眉唾物の話なのじゃ。しかし、かなり昔のことになるが、皇帝陛下御自ら、巨人の国に親征されたことがあってな。なので、完全にウソとは断定できぬ」
帝国宰相の話によれば、12年前、皇帝自らが諸侯連合軍を率い、巨人の国に遠征を行ったとか。当時、皇帝は15歳。この世界的には、一応、成年に達していると言えよう。ただし、まだ若い皇帝になり代わって、帝国宰相が裏でも表でも万事取り仕切っていたことは間違いないだろう。
諸侯連合軍は、先代ツンドラ候(現ツンドラ候の父、現在は隠居して悠々自適の生活)の活躍もあり、巨人の国の軍隊を打ち破りながら優勢に軍を進め、巨人の国の領内、クルグールスク村に駐屯した。そこで、皇帝の若さが出たのか、村一番の美しい娘のもとに、毎日のように足繁く通うようになった。
「それで、ぶっちゃけた話、できちゃったんですか?」
「有り体に言えば、その可能性もあるということじゃ」
クルグールスク村での滞在は2、3ヶ月という短期間に終わった。その後、諸侯連合軍は、何度か巨人軍と戦い、最終的には和議を結んで引き揚げたとのこと。皇帝と村娘とのラブ・ロマンスは、それっきり忘れ去られ(というか、いわゆる「黒歴史」として封印され)、その後は一切、話題に上らなくなった。
「それで、わたしに何をせよと?」
「ここまで話せば分かると思うが、つまり、皇帝陛下の御落胤の話が本当かどうか調べてほしいのじゃ。もし本当なら、その御落胤を帝都まで導いてほしい」
「話としては分かりましたが…… ただ、北方のことですから、わたしでなく、ツンドラ候に頼む方が早そうな気もしますが」
「いや、ツンドラ候には、ドラゴニア候への仕置きのために動いてもらっておる。それに、この御落胤の話は、真偽がハッキリするまで公にしにくいことでもあってな。ということなので、これは、言わば、プライベートでのお願いとして、理解してほしい」
なんだか面倒なことになってきた。「兵を出せ」あるいは「金を出せ」の方が、少しはマシだったかも。