有料御落胤情報
朝食を終えると、ブラックシャドウはカウンター横のボードに向かった。そして、手早く貼り紙をチェックし、
「新しいのはこれだけか。う~む、微妙だな……」
と、貼り紙を1枚はがし、戻ってきた。紙片には、「御落胤の噂に関する情報」という表題のほか、金貨120枚という価格と今日の日付が記入されている(日付は、貼り出された日を示すとのこと)。なかなか手慣れた様子だ。このようなところを利用する機会が多いのだろう。
ブラックシャドウは紙片を示しながら、
「結論的に言えば、選択の余地はないと思う。誰か御落胤に関する有力な情報をお持ちなら、話は別だが」
「3人で割って、金貨40枚ずつか。異存はないわい。その程度なら、どうということはない」
ホフマンは渋い顔で言った。「異存はない」といっている割には、不満そうに見えるけど、地がそういう顔なのだろう。わたしにも異議はない。1人で買う場合と比較すれば、大幅な経費の節約となる。でも、もう少し安くならないものだろうか。釈然としないところはあるが、値切る気分でもないので、わたしは無言でうなずいた。
「そうか、では決まりだ」
ブラックシャドウはニコリともせずに言った。そして、紙片を持ってゆっくりとカウンターに向かう。ホフマンとわたしも続いた。
ブラックシャドウはカウンターで紙片を示し、
「オヤジ、この情報を頼む」
カウンターの向こうにいたオヤジ(店のオーナー)は、紙片を受け取ると、わたしたち3人をジロジロと見回した。ツンドラ候ほどではないが、北方で生息(!?)しているせいか、体は大きい。身長2メートル以上ありそうだ。
オヤジは紙片を一瞥すると、
「御落胤関係の最新情報かい。いいよ。ただ、決まりなので、まずは代金を払ってもらいたい」
わたしたちがそれぞれ金貨40枚を支払うと、オヤジは枚数を丁寧に(3回も)数え、間違いないことを確認した。そして、一旦カウンターの奥の部屋に入って金貨をしまいこみ、代わりに電話帳のように分厚いノートを持って戻ってきた。
オヤジはおもむろにページをめくりながら、
「いいか、一度しか言わないからな。よく聴けよ」
と、御落胤情報を語り始めた。情報は、それほど複雑なものではなく、「グレートエドワーズバーグより北方、馬で少し急いで2日行程のところに、『地獄谷』と呼ばれるフロスト・トロールの村があり、その村に御落胤が囚われているらしい」という、非常に曖昧模糊としたもの。こんな話に金貨120枚の価値があるとは思えないが、御落胤関係では今朝入手したばかりの最新情報らしい。
「行こうか」
ブラックシャドウは言った。ガセネタような気もするが……いや、多分、ガセネタなのだろうが、せっかく代金を支払ったのだから、行くしかない。




