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ザ☆旅行記Ⅶ 奇貨おくべし  作者: 小宮登志子
第5章 旅の道連れ
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再提案

 わたしが自分のペースでビーフ・ストロガノフを口に運んでいると、ブラックシャドウは、手持ち無沙汰になったのか、メイド服のウェイトレスを呼び止めて飲み物を注文した。

「この辺りの酒は、結構、種類が豊富なのだ」

 ブラックシャドウは、尋ねてもいないのに説明を始めた。大麦やライ麦やテンサイを原料として、蒸留した後に白樺の炭で濾過するとか、ブランデーとのハイブリッドがお勧めとか、唐辛子を漬け込むと風邪薬になるとか、わたしとしては、別にどうでもいい知識ばかり。


 しばらくして、注文した酒が運ばれてくると、ブラックシャドウはそれをグイと一気に飲み干し、

「酒は飲むべし…… 更につくせ一杯の酒……」

 と、1人で悦に入っている。

 こうしていると、なんだか、相手にしないのも悪いような気がして、

「御落胤は、まだ発見されていないのですか?」

「うむ、だからこそ、みんな血眼になって捜しているんだよ。私もその1人だがね」

「手がかりとか…… 例えば、似顔絵が出回ってたり、『どこそこの町で見かけた』という噂が流れたり、そのようなことは?」

 と、世間話のついでに情報収集ができればと思って言ってみたが、ブラックシャドウは軽く受け流し、

「情報はいろいろと出回っているようだが、少々値が張るのでね。費用の関係についても、『ソロ』では辛いものがあるな」

 なるほど、それは確かに、そのとおり……

「しかも、帝国宰相や、アート公、ウェストゲート公、サムストック公といった大貴族、マーチャント商会などが、北方に優秀なエージェントを送り込んだという噂もある。いずれ、政治的な駆け引きが絡んでくるかも知れん」

 優秀かどうかは別にして、そのうちの1人が、あなたの目の前に座っているのだが……

「要するに、個人で御落胤を捜し当てるのは容易なことではないということだ」


 ブラックシャドウは、もう一度ウェイトレスを呼び止めた。そして、わたしの方を向き、

「あなたも何かどうかね? 相席の礼というわけではないが、おごるよ」

「いえ、気持ちだけで結構。お酒は体質的に、ちょっと……」

 わたし的には、飲めないわけではないと思うけど(本当は、酒乱だったりするかも)、用心するに越したことはない。

 ブラックシャドウは自分の飲みものを注文すると、

「ところで、この前の提案のことは考えてくれたかな? いや、無理にとは言わないがね。お互い、1人で捜すよりも効率的だと思うんだ」

 愛想のよい物言いとは対照的に、ブラックシャドウの視線は氷のように冷ややか。タダ者でなさそうなことはハッキリとしているが、この男、心の中で、一体、何を考えているのやら。

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