再びブラックシャドウ
男は、この前に見たときと同様に、黒いレザーアーマーの上に黒いマントを身にまとっていた。背は高く、やや痩せ気味、氷のように冷たい眼光でわたしを見下ろしている。
「どうぞ。あなたは、確か…… ブラックウィドウさん?」
「この前は同席させてもらって、どうもありがとう。だが、それはそれとして、私は『ブラックウィドウ』ではなく、『ブラックシャドウ』。記憶が不正確なら、訂正を願いたいものだな」
男はニコリともせず、また反対に、気を悪くした風もなく言った。冗談を受け付けない性格なのだろうか。
「これは失礼しました、ブラックシャドウさん。相席は構わないので、どうぞ」
ブラックシャドウは、近くを通りかかったウェイトレスに料理を注文すると、ゆっくりと腰を下ろし、
「ふぅ~~~……」
疲れたように、大きく息を吐き出した。
「いきなりため息ですか?」
「いや、ちょっとした事件というと大袈裟だけれど、『ソロ』には辛いものがあるね」
ブラックシャドウはプチドラに手を延ばしかけたが、すぐに、思い出したように手を引っ込め、
「ああ、これは失礼、別に危害を加えようというのではないのだが……」
プチドラは牙をむき、低い唸り声を上げ、まるで主人を守ろうとする子犬のように、ブラックシャドウを威嚇している。
しばらくすると、料理が運ばれてきた。ビーフ・ストロガノフは、どこにでもあるような、ごく平凡なもの。それに対し、ブラックシャドウの前には、色とりどりのキノコを山盛りにした皿が置かれた。
「ここ数日は、菜食主義者でね」
ブラックシャドウは皿を口にあてがい、キノコを流し込むようにして、あっという間に料理を平らげてしまった(なんとダイナミックな!)。こちらはまだ、料理には手をつけていないのに。
「う~む、まあまあかな。シャグマアミガサタケの毒抜きもしっかりしているようだ」
シャグマ……? 毒抜き?? なんだかよく分からないけど、この男、意外とぺダンチックな趣味の持ち主かもしれない。
ブラックシャドウはハンカチで丁寧に口を拭うと、
「そういえば、あなたの用は済んだのかね? いや、別に、詮索するつもりはないが」
「ええ、なんとか…… ブラックシャドウさんの方は、いかがですか? 御落胤捜しでしたっけ?」
すると、ブラックシャドウは首を左右に振り、
「うまくいっていれば、今頃は、きっと左うちわだよ。この北方のどこかに御落胤がいることは間違いないんだ。まあ、居場所が分かっていれば、こうして捜索する必要はないわけだがね」
それは確かに、そのとおりだけど……




