プチドラも疲れ気味
ほのぼのとしたクルグールスク村とは打って変わって、なんだか、きな臭くなってきた。灰色の空の下、理由はないが、わたしの行く末を暗示しているような気もして、あまり気持ちのよいものではない。
「町に急ぎましょう。いつまでも、こんなところに留まっていることはないわ」
隻眼の黒龍は、ゆっくりと宙に舞い上がった。死体はそのままだけど、わざわざ埋葬する義務も義理はない。そのうちに、熊や狼の胃袋に収まるだろう。
北の大河は蛇行を繰り返し、西へと続く。眺めはよいが、今は眺望を楽しむ気分にならない。
「ねえ、プチドラ、さっきの連中は、一体、誰にやられたんだろう」
「分からないけど、戦闘の際に一刀のもとに斬り倒されたとすれば、相手は相当な使い手だよ。灰色マント以外の死体はなかったから、一方的にやられたのかな。灰色マントの他のメンバーは逃げ出したんだろうね」
「相手は1人かしら。それとも、もっと多い?」
「相手が1人だとしたら…… 常識的には考えにくいけど、もしそうなら、それこそ神様みたいにムチャクチャ強い剣術の達人だよ。灰色マントにとっては、運がなかったと諦める以外ないだろうね」
「灰色マントの正体からして……ついでに言えば、あの悪趣味な兜も含めて、よく分からないんだけど、一体、何者?」
「それはボクにも分からないよ。少なくとも、真っ当な職業の人ではないと思うけどね」
結局、何から何まで分からないことだらけ。とにかく怪しいとしか、言い様がない。
その後は取り立てて言うほどのことはなく、クルグールスク村を出て3日目の夕方に、グレートエドワーズバーグの町に着いた。町から少し離れた地点で地上に降りると、隻眼の黒龍は、いつものように、子犬サイズのプチドラに体を縮め、わたしの胸にチョコンと収まった。
しかし、プチドラはすぐに耳をピンと立て、わたしの肩に飛び乗り、周囲を見回す。
「どうしたの? また、誰かに監視されてるの?」
「ごめん。今度は本当に気のせいだったみたいだ。マスター、あれを見て」
プチドラが指した先には、野ウサギが跳ねていた。ドラゴンに驚いて逃げていくところかもしれない。プチドラにしては、珍しいこともあるものだ。
「プチドラ、あなたの神経も、少々、疲れ気味じゃない?」
「面目ない……」
プチドラは恥ずかしそうに手で顔を覆った。
わたしはプチドラを抱き、やや駆け足で町に向かった。入口(城門)で(いつぞや行商人から窃取させた)通行証を見せ、街中で適当に冒険者らしい一団にくっついて、この前と同じくクラーケンの宿に。とりあえず、宿でゆっくりと休むことにしよう。




