謎の変死体
クルグールスク村からグレートエドワーズバーグまでは、来た道を反対方向に、隻眼の黒龍に乗って数日の空の旅。村で何か有力な手がかりを得られるだろうと期待していたけど、少々、当てが外れたようだ。「村にはいないことが分かった」というだけでは、手がかりとは言いがたい。
「マスター、これからどうするの?」
「とりあえず町まで戻りましょう。今後のことは、戻ってから考えることにするわ」
でも、正直なところ、何をすればよいのか、まったく見当もつかない。とりあえず、町に戻ればよい知恵が浮かぶかもしれないという、希望的観測を持って……
ただ、「なんとかなるだろう」のつもりでいると、往々にして「遠き慮り無きは必ず近き憂いあり」ということは、よくあるものだ。
「そういえば、プチドラ、町を出るときに『誰かに監視されてるみたいな』って言ってたけど、クルグールスク村ではどんな感じだった?」
「全然そんな感じはなかった。極めて快適というか……」
「そう、やっぱり空を飛んで追いかけて来られなかったみたいね。」
眼下には、蛇行する北の大河が西へと続いていた。
「あっ、ちょっと、マスター」
突然、隻眼の黒龍がスピードを落とし、高度を下げた。
「どうしたの?」
「あそこに、黒っぽい固まりみたいなのが幾つかあるんだけど、分かる?」
見ると、北の大河の畔に、やや大きい黒っぽい物体が見えた。なんだろう、流木だろうか。
「ここからでは、よく分からないわ。もう少し近づいてみて」
隻眼の黒龍は、さらに高度を下げ、黒っぽい物体に近づいていく。それにつれ、正体が徐々に明らかになっていった。
その物体は、よく見ると、人の死体だった。灰色マントをまとい、(バケツかゴミ箱のような)円筒型の兜をかぶった死体が数体、無造作に河畔に転がっていた。
「この灰色マントって……」
「うん、クルグールスク村の手前で、巨人相手に何やらトラブルになってた連中だよ。あの時は全員で15人くらいだったっけ。でも、死体は3人分だね」
「プチドラ、とりあえず降りてみて」
隻眼の黒龍は、一応、周囲を注意深く見回しながら、死体の傍らに降り立った。どれも皆、同じ円筒型の兜、同じ灰色のマントで揃えている(ユニフォームだろう)。
隻眼の黒龍は、死体に顔を近づけ、
「頚動脈をスパッと一撃で斬られたのが致命傷になったみたいだね。しかも、全員、同じ傷だよ」
死体は例外なく首筋から大量の血を流していて、下の地面が変色していた。




