御落胤の行方
前ツンドラ候が戻ってきたのは昼前だった。
「目が覚めたかな? はっはっはっ、昨日はかなり飲んでいたようだが、酒は飲んでも飲まれるなよ」
と、大きな口を開け、豪快に笑っている。
「申し訳ありません。いつになく飲みすぎたようです。でも、そんなに飲んだつもりはないのですが……」
「巨人の国の酒は飲みやすいからな。つい、限度を超えて飲んでしまうんだ。しかし、アルコール度数は60%以上。その程度で済んだのだから、ラッキーと思わねばならんぞ」
なんと…… あの飲みやすさから考えれば信じがたい話だけど、とりあえず納得。
「ところで、御落胤の話じゃが……」
前ツンドラ候は律儀にも、朝早くから御落胤のことを調べてくれていたようだ。
「按配はいかがでしたか。御落胤は、まだ、この村にいらっしゃるのでしょうか」
「結論的には、残念ながら、この村にはいない。しかし、どこにもいないというわけではないようじゃな」
前ツンドラ候の話によれば、自らも参加した12年前の遠征の際、皇帝が村一番の美しい娘のもとに足繁く通っていたことは間違いないという(自分も目撃したとか)。戦いが帝国側の勝利に終わり、諸侯連合軍が引き揚げると、この件は、皇帝や帝国政府首脳部からすっかり忘れられ(なかったことにされ)、それは、同時に、娘にとって苦難の始まりとなった。というのは、娘が本当に皇帝の子供を身ごもっていたから。
その娘は幼くして両親を亡くしており、当時、親戚夫婦のもとに預けられていた。その親戚夫婦は、人並み以上にケチで性格が悪かったらしく、事あるごとに娘に辛く当たり、特に、娘が子供を身ごもったことが判明した後は、「この、ごくつぶしが!」と、ほとんど虐待に近いことまで平然としてやってのけたとか。それでも子供はなんとか無事に生まれ、母子は物置小屋に押し込まれながら、どうにか、日々、(最低限の)生活を送っていた。
母子に転機が訪れたのは、それから数年後のこと。ある日、村に子連れの戦士がフラリと現れ、その母に一目惚れ、「亡き妻に面影が似ている」と言って結婚を申し込んだ。母はすぐにOKしたが、親戚夫婦はなかなか承知しない。「母子を連れていくなら補償金を出せ」などと無理難題を吹っかけたりもしたが、ともあれ、戦士は相当な額の金銭を親戚夫婦に支払って、めでたく結婚にこぎつけることができた。2人(正確には、子供を入れて合計4人)は、すぐに村を出て、その後の行方は不明とのこと。
「ということは、つまり、その戦士の行方を追わなければならないということですか」
「そうじゃな。ちなみに戦士は、『真正!? 子連れマンモス』と名乗っていたらしい。そんなややこしい名称にしている理由については、『版権の関係が云々』とか言ってたらしいが、わしにはよく分からん話じゃ」
御落胤捜しは振り出しに戻ったようだ。それにしても、「真正!? 子連れマンモス」って……




