二日酔い
翌朝、目を覚まし、体を起こしたわたしは、
「うっ!」
猛烈な頭痛に襲われ、再びベッドに倒れこんだ。目を動かして周りを見回すと、わたしは、なぜか、小奇麗な小部屋の小奇麗なベッドの上に横たわっている。
「おはよう、マスター」
プチドラ(今は子犬サイズ)は、枕元で軽くストレッチしている最中。
「おはよう…… プチドラ、あなたは元気そうね」
昨夜は、確か、前ツンドラ候と話をして、それから……どうなったんだろう?
実は、その後のことは、よく覚えていない。今の気分の悪さから推測すると、相当に飲んでいたのだろう。
「ところで、ここはどこ?」
「前ツンドラ候、ピョートル・ミハイロビッチさんの家だよ。泊めてくれたんだ」
「そうだったの。全然、覚えてないけど…… ところで、その、前ツンドラ候はどこに?」
「今朝早く出て行ったよ。『調べものがある』とか言ってた」
「そうなの……」
タフな人だ。前ツンドラ候は、わたしよりはるかに多く(のみならず、常人なら急性アルコール中毒で病院に担ぎ込まれるくらいに)飲んでいたはずだけど……
ベッドで横になり、ぼんやりと天井を眺めていると、しばらくして、
「おはようございます。朝食をお持ちしました」
メイドが2人、朝食を運んで来てくれた。ただし、こんな状況なので、とても食べる気にはならないが。
「ありがとう。あなたたちは、ここで働いているの?」
「そうなんです。前の侯爵様のところで働けて、光栄に思っています」
話によれば、前ツンドラ候は、息子のエドワードに位を譲るとあっさりと政界を引退し、悠々自適の隠居生活を始めたらしい。そして、何年かごとに引越しを繰り返し、このクルグールスク村に引っ越してきたのは3年ほど前とのこと。その際、この2人が、「厳正な審査」の結果、メイドとして雇われたという。
なお、この村に引っ越した理由は、巨人の国との戦争の際にライバルであった(その際は敵方であった)ニコライ・アレクサンドロビッチ・セルゲーエフ元将軍と話をしたくなったからとのこと。ちなみに、今はセルゲーエフ氏も現役を引退し、クルグールスク村で道場を開いて後進の指導に当たっているとか。
「前から、少し気になってたんだけど…… 同じ村にヒューマンと巨人が同居して、よく争いにならないわね」
「問題ありません。うっかり踏み潰されたりしないよう、村の中で居住区は分かれていますが、皆さん、いい(巨)人たちばかりですよ」
国同士が(支配階級のレベルで)いがみあっていても、住民レベルの日常的な交流に関しては、まったく妨げにならないということらしい。




