大宴会
その夜、わたしと隻眼の黒龍は「賓客」としてクルグールスク村に招かれ、宴会が始まった。巨人の国では、種族に関係なく強ければ尊敬されるらしい。話によれば、前ツンドラ候ピョートル・ミハイロビッチは、クルグールスク村ではトップクラスの豪傑で、彼と引き分けた隻眼の黒龍も、当然、尊敬に値するという。さらに、わたしも隻眼の黒龍の「主人」ということで、同様の敬意を払われるのが相当とのこと。
「УλрζАааΨа~~~!!!」
巨人たちは酔っ払い、大声でわめいている。隻眼の黒龍も(大きいほうが巨人の相手もしやすいだろうと、子犬サイズに縮小していない)絶好調で、巨人に調子を合わせて奇声を発している。ちなみに、巨人の国の酒は清涼飲料水のように飲みやすく、味わいや香りは非常にフルーティ。
そして、宴もたけなわにさしかかると、顔を真っ赤にした前ツンドラ候が、わたしの横に座り、
「はっはっはっ! どうかね、飲んどるかね!! この世の中、一杯の酒に如くものはない!!!」
相当飲んでいるようだ。大丈夫だろうか。
「ところで、あなたはどうしてこんな辺鄙なところまで? いや、差支えがあれば話してもらわなくてもいいがな。そういうわしだって、こんな辺鄙な田舎の村で隠遁生活してるんだから。はっはっはっ!」
あのツンドラ候の父君だけあって、裏も表もない分かりやすい人のようだ。あえて情報を隠す必要はないだろう。それに、ツンドラ候から預かった手紙も渡さなければならない。
「ある人を捜していまして…… それともうひとつ、現ツンドラ候からことづけがあります」
わたしは風呂敷包みからツンドラ候の手紙を取り出し、手渡した。
手紙を手にした前ツンドラ候は、一瞬、何がなんだか分からないような顔をしていたが、すぐにポンと手を叩き、
「そうか。エドワードのことだな。しばらく顔を見ていないが、元気にやってるかな」
前ツンドラ候は手紙を読み始めた。何が書いてあるのか知らないが、時々、大笑いしたり、横を向いてわたしをじっと見つめたりしている。
やがて、納得したような顔で、
「分かった。そういうことだったのだな。まあ、わしは寛大だから、何も言わんがね」
なんだかよく分からないが、それはさておき、わたし的にはこちらが本題、
「実は、このたび面倒な任務を言いつけられ、はるばる北の地にやって来たのですが……」
「面倒な任務?」
わたしは前ツンドラ候に、12年前の遠征に起因する御落胤の噂のこと、その噂の真偽を確かめ、もし本当なら御落胤を帝都に連れて帰らなければならないことを話した。
すると、前ツンドラ候は、腕を組んで虚空に目をやり、
「そういえば、そんな話もあったなあ…… わしに任せておけ。明日にでも調べてみよう」
本当に任せて大丈夫だろうか。でも、心配してどうにかなるものではないだろう。それにつけても、巨人の国の酒は非常に飲みやすく……




