大男の正体
ヒューマンの大男は、隻眼の黒龍を見上げた。(繰り返すようだけど)身長2メートル30センチ以上、白髪混じりのオールバックに口髭と顎鬚を伸ばしている。結構な年のはずだけど、その割には筋骨隆々のマッチョマンだ。
「う~む…… 黒龍よ、このわしと軽く勝負せんか?」
だしぬけに大男が言った。
わたしは隻眼の黒龍と顔を見合わせた。初対面でいきなり勝負を申し込むなんて、この甚だしい非常識ぶりは、毎度お騒がせのあの人のような……
「わしは前ツンドラ候ピーター。名前くらいは聞いたことがあろう。巨人の国ではピョートル・ミハイロビッチと名乗っておるが。実はケンカが三度の飯より好きでな。強そうな者を見ると、勝負を申し込まずにはいられぬと、まあ、ほとんど病気のようなもんじゃ」
あっさりと白状してしまった。なんとなく、そんな気はしていたけど、この人はツンドラ候の父君だった。
隻眼の黒龍は、やや困惑しながら、
「どうしようか?」
「いいんじゃない。『軽く』と言ってるから、あまり本気を出さないようにね」
付近一帯に建物はない。ここでなら、いくら暴れても、誰にも迷惑はかからないだろう。
隻眼の黒龍は、わたしを地面の上に降ろすと、
「ボクは隻眼の黒龍です。詳しい話は後ほどにでも。今はこちらのウェルシー伯に仕えていまして……」
「なに! 隻眼の黒龍というと、あの伝説の黒龍じゃな!! そうか、わしは運がいい!!!」
前ツンドラ候は、目の前にいるのが伝説の隻眼の黒龍と知って大喜び。どういう精神構造か分からないけど、やはり、あの人の父君だけのことはある。
勝負は軽く30分1本勝負で行われることになった。武器や魔法の使用はOKなど、早い話がなんでもあり。ただし、巨人の国の風習では、このような場合の暗黙のルールがあるそうで(詳細は不明)、勝負がそのルールに則って行われるよう、巨人のうち1人がレフリーとなった。
前ツンドラ候は、腕をぐるぐると振り回したり、自分の頬を手のひらでパンと張ったりして、勝負の前から気合十分。レフリー以外の巨人たちも、(何を言っているのか分からないが)大声で声援を送ったり、手を叩いたりして、子供のようなはしゃぎよう。
やがて、ゴングのつもりだろう、カーンという金属音が響いた。同時に、前ツンドラ候は猛然とラッシュ、空手チョップを連打し、隻眼の黒龍がひるんだところでその胸板にドロップキック。さすがの隻眼の黒龍「グェッ」と悲鳴を上げた。しかし、すぐに体勢を立て直し、アウトレンジからの火炎放射や空中(頭上)からの物理攻撃(噛みつき、ひっかき等)に切り替え、その後、攻防は一進一退。
結局、30分戦っても決着はつかず、勝負は引き分けとなった。




