クルグールスク村へ
わたしはプチドラを抱いて町を出た。そして、町から少し離れたところまで歩くと、プチドラを地面に下ろし、
「この辺りで大丈夫でしょう」
ところが、プチドラは落ち着きなく、周囲をキョロキョロと見回している。のみならず、額に手をかざして遠くを見ようとするような仕草も(プチドラの姿のままではあまり意味がなさそうだが……)。
「どうしたの? もしかして、また、誰かに監視されてる?」
「まあね。宿を出た時から、そんな気がしていたんだけど、確証はないよ」
「でも、いちいち気にしていても仕方がないわ。行きましょ。まさか、空を飛んでまで、追ってこないでしょ」
「う~ん、まあ、そうだね」
プチドラはうなずくと、体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝き、あっという間に、本来の隻眼の黒龍の姿に。
わたしが背中に乗ると、隻眼の黒龍は、ゆっくりと上昇した。
「それじゃ、行きましょうか。え~っと、クル……スク?」
「クルグールスク!」
グレートエドワーズバーグからクルグールスク村までは、隻眼の黒龍がゆっくり飛んで数日程度の距離。村は、巨人の国の中では比較的帝国領に近いところに位置し、住民は、巨人とヒューマンが50%ずつ。体のサイズが違いすぎる割には、互いに争うことなく、平和共存しているとのこと。
帝国宰相の話によれば、12年前に皇帝自らが諸侯連合軍を率いて巨人の国に遠征し、クルグールスク村に駐屯したということだから、御落胤が生きていたら、成長して11歳くらいになっているだろう。ただ、名前も顔も分からず、手がかりが「背中にハート型のあざがある」だけでは、どうしようもない。子供を見つけたら、一人ひとり服を脱がせていくというわけにもいかないし……
灰色の空の旅は続いた。眼下には、北の大河がうねうねと蛇行している。水源は巨人の国の奥深くということだけど、一体、どこまで続いているのだろう。
「この辺りまで来れば、もうすぐだよ。あと1時間くらいで着くと思う」
「そうなの。思ってたより早かったわね。それにしても…… 寒いわ」
この辺りまで来ると、コートがなければ凍死してしまいそうだ。隻眼の黒龍は、相変わらず闇夜のような肌をさらしているが、寒くないのだろうか。
その時、隻眼の黒龍が突然体を起こし、空中で急ブレーキをかけた。わたしは振り落とされそうになり、思わず黒龍の背中にしがみつく。
「どうしたのよ。危ないわ」
「ごめんね、マスター。でも、あれを見て」
隻眼の黒龍が指した先には……




