奇貨おくべし
わたしは食事を終え、部屋に戻ると、そのままベッドに一直線、ゴロリと寝転がった。
「プチドラ、さっきのギミック……通称ブラックシャドウって、何者だろう?」
「よく分からないけど、感じとしては、信用しないほうがよさそうだよ」
帝国宰相からは、パーティーを組むことまで禁止されていない。ブラックシャドウの誘いに乗っても約束を破ったことにはならないが、わたしにも、あの男はあまり信用できないような気がする。本当に、組む相手を探して、単独の冒険者に声をかけて回っていたのかもしれないが、いずれ強盗に変身するつもりで、弱そうな冒険者を探していただけかもしれない。
ともあれ、今日のところは眠ることにしよう。これからどうするかは、明日の朝、考えればいい。
その夜……
ある国の王子が別の国に人質に出され、その国で、日々、困窮した生活を送っていた。というのは、国同士が激しく対立しあっていたので、その王子は、詰まるところ、捨て駒か捨て石に過ぎなかった。
ある日、とある商人が、ふとしたことから、その王子を見て、言った。
「奇貨おくべし!」
商人は王子に会い、
「あなたの家を大きくしましょう」
これが二人の運命的な出会いだった。
そして、その翌朝……
「*@|★‘%○#△…… !!!」
わたしは、言葉にならない声を上げて飛び起きた。その勢いで、わたしの布団の上で丸くなっていたプチドラを弾き飛ばしてしまい、プチドラは壁に激しく頭を打ち付けることになった。
「アイタタタ…… マスター、一体、何が???」
プチドラは小さい両手で頭を押さえ、フラフラと立ち上がった。
「ごめん、早い話が夢オチなの。でも、なんというか、こう……」
わたしの頭の中では、「奇貨おくべし」という、この言葉が繰り返し響いていた。すなわち、御落胤を帝国宰相に引き渡すのではなく、わたし自身がうまく使えば、自然と自分の家も大きくなるだろうという……
「ねえ、マスター?」
プチドラはわたしの膝の上に乗っかり、わたしをじっと見上げている。
「なんでもないわ。ちょっとした危険思想が浮かんだだけだから」
もちろんこれは、御落胤を見つけることができればの話だが……




