御落胤と懸賞金
男は「ハテ」と首をかしげ、
「御落胤を捜しに来たのではない? こんな辺鄙なところまで冒険に出てくる人は、そうそういないのだが。いや、これは批判してるわけでも見下してるわけでもなくて、気分を害したなら謝るが……」
わたしは適当にすっとぼけて、
「いえ、お気になさらないで。ちょっとした用があっただけ。ところで、先ほどの御落胤の話というのは、つまりそれは、あの噂になってる御落胤のことかしら」
「そう。この北の地のどこかに御落胤がいるらしいのだ。今ここで食事している冒険者のほとんどは、おそらくは御落胤目当てだろう。さる大貴族が、莫大な、一生遊んで暮らしても使いきれないくらいの懸賞金をかけたらしいのでね。冒険者なら、当然、食指が動くはずだよ」
懸賞金の話は初耳だけど、本当だろうか。仮に話が真実だとして、「さる大貴族」とは誰だろう。それに、この男、こんなに簡単に自分の持っている情報を他人に与えてもよいのだろうか。あるいは、情報としての価値のない程度の一般的な話になってるから構わないのか。
わたしの心の中ではさまざまな疑念が渦を巻いていた。しかし、色には出さず、
「……ということは、あなたもやはり、御落胤を捜している冒険者?」
「まあね」
「おひとりで?」
すると、男は「待ってました」とばかりに、ニヤリと白い歯を見せ、
「いや、実は、問題はそこにあるんだ。懸賞金を受け取るためには、他の冒険者に先んじて御落胤を捜し出さなければならない。しかし、ぶっちゃけた話、私ひとりで捜し出すのは無理だ。どうしても仲間が必要になる」
「仲間ですか」
「そう。見たところ、あなたもひとりのようだから、目的が同じなら、協力するのもよかろうと思ったのだ。もちろん、懸賞金は山分けだ」
男がパーティを組む相手を探していたとは、意外だった。でも、額面どおりに受け取ってよいものかどうか。
「私はアレキサンダー・ギミック。世間ではブラックシャドウと呼ばれている。もし、興味が湧いてきたなら、明日、私がここで朝食を食べている時にでも、声をかけてくれればいい」
ブラックシャドウって…… 分かりやすいけど、ひと昔前の特撮ヒーローものの悪役のような名称。もう少しセンスのよいニックネームはなかっただろうか。
ギミックは立ち上がり、もう一度プチドラに手を伸ばした。しかし、すぐにハッとして、その手を引っ込め、
「くわばらくわばら…… でも、私もそんな、少々危険なペットがほしくなったよ」
謎めいた言葉を残し、ギミック(通称ブラックシャドウ)は去っていった。




