憂鬱な空の旅
帝国宰相が「重大な話」というからには、やっぱり重大な……これではトートロジーだ。なんだか分からないが、もし断ったら、後からどんな嫌がらせが待っているか知れない。
そこで、本意ではないが、例によって伝説のエルブンボウなど、いつもの風呂敷包みを持って隻眼の黒龍に乗り、ドーンやメアリーの見送りを受けながら、
「仕方がないから行ってくるわ。できるだけ早く戻れるようにする」
「はい、でも、その間に、マーチャント商会が、今度はもっと大軍で攻めてきたりしたら……」
今度ばかりは、ドーンもちょっぴり弱気。
「多分、なんとかなると思います。絶対ではありませんが……」
メアリーの返事も、頼もしいんだか、頼りないんだか、ハッキリとしない。多分、しばらくの間なら、なんとか頑張ってくれるとは思うけど……
「それじゃ、マスター、行くよ。」
プチドラは巨大なコウモリの翼を広げ、ゆっくりと宙に舞った。
帝都までは、例によって10日余り。はるか遠くからでも、宮殿の周囲に建てられた4本の尖塔と魔法アカデミーの塔が目に入ってくる。ただ、今回は、ちょっぴり憂鬱な、気分的にはスッキリとしない空の旅だけど……
「ねえ、プチドラ、帝国宰相の『重大な話』って、なんだと思う?」
「実際に話をきいてみないことには、分からないよ」
伝説の隻眼の黒龍でも、全知全能みたいに何もかもお見通しというわけにはいかないようだ。
「ただ、ガイウスが言ってた話と関係があるかも…… というか、その関係以外には考えにくいかな」
「ああ、ドラゴニア候を成敗するとか、皇帝の御落胤が存命中とかいう話ね」
マーチャント商会の派遣部隊をやっつけたあと、ダーク・エルフのリーダー、ガイウスが去り際に語ったところによれば、帝国宰相が再三の呼び出しに応じないドラゴニア候の追討を命じたとか、北方に皇帝陛下の御落胤がいるに違いないという噂が広まっているとか……
「御落胤の話はともかくとして…… 多分、そんな話、有り得ないから。ドラゴニア候を征伐する諸侯連合軍に兵を出せということかしら」
「そうかもね。もし兵を出せないなら、その時は金を出せということも含めてのことだと思うよ」
「どっちもイヤだと言ったら?」
「ドラゴニア候の仲間ということで、ついでに成敗されちゃう」
ひどい話だけど、そのくらいのことは有り得ると思う。
やがて、大河の畔に広がる帝都の町並みが目に入ってきた。帝国宰相から、どんな無理難題を吹っかけられることやら……