いかにも怪しい男
男は、黒いレザーアーマーの上に黒いマントを身にまとっている。歳は30前後だろう。背は高いが、やや痩せている。鋭く、氷のように冷たい眼光は、この男がタダ者ではないことを物語っていた。
「どうぞ。わたしは構わないわ」
「ありがとう」
男はゆっくりと椅子に腰を下ろした。
プチドラはわたしの肩によじ登り、耳元でそっとささやく。
「絵に描いたような怪しい男だけど…… マスター、気をつけて」
わたしは、「分かってる」と小さくうなずいた。
やがて、先ほどの少女が、お盆に料理を載せてテーブルに運んできた。少女は、わたしの前に料理を並べ、男の注文を聞き、先程と同じようにカウンターのところまで戻っていく。ちなみに、わたしが注文したのは、北の大河を遡上するサケのマリネとその他諸々(多少はヘルシーを意識)。ただ、目の前に、いかにも怪しげな男が腰掛けているとあっては、ゆっくりと味わうような雰囲気ではない。
男はプチドラをしげしげと見つめ、
「見慣れない生き物だが…… ペットかね?」
「そうよ。南方の辺境地帯で捕まえたの」
「ほぉ~」
男が手を伸ばすと、プチドラは小型の愛玩動物のように、サッとわたしの背後に身を隠した。
すると、男は苦笑して、残念そうに首を何度か左右に振り、
「嫌われてしまったようだな。私はそんなに恐ろしそうに見えるのかな」
わたしは適当に話を合わせ、
「かもね。でも、いきなり噛みつかれなかっただけ、マシかもしれないわ」
「噛みつかれるのかい。物騒なものを飼っているんだな」
しばらくすると、この男にも料理が運ばれてきた。注文したのは分厚いステーキだった。男はガブリと肉にかじりつくと、それをほんの数分で平らげてしまった。わたしはまだ、半分も食べていないのに。
「う~む…… 味は悪くない。しかし、格別に美味とも言えない。値段相応に、まずまずの味かな」
男はハンカチを取り出し、丁寧に口を拭った。そして、いきなり切り出した。
「ところで、あなたも例の御落胤を捜しに来たのかな?」
「御落胤?」
わたしは、とりあえず、よく分かっていないようなフリ。少なくとも、この男の正体が分かるまでは、自重するに限る。




