食堂にて
わたしは、伝説のエルブンボウ、金貨など貴重品を袋に詰め、(あまり意味がなさそうな気もするが)ドアにしっかりとカギをかけて、階段を降りた。1階はそれなりに広い食堂だけど、冒険者が一杯で、空いている席を探すのは、ひと苦労だった。それでもどうにか、カウンター近くでテーブル席を見つけ、腰掛けた。
「なんだか、異様に人が多くない?」
「事実上、ギルドが出店規制していることもあるけどね。それを考慮しても、ちょっと多いかな」
「ふ~ん…… まあ、いいわ。とにかく、何か注文しましょう」
机の上のメニューを手にとって見ると、『クラーケンの塩辛』、『シロクマのステーキ』、『トナカイの煮込み』など、怪しげな料理が並んでいる。でも、値段はそれほど高くない。食材を手に入れるのは大変そうだけど、これでも採算が取れるのだろうか。
「宿泊料もそうだけど、とにかく安いわ。普通、独占利潤を上乗されるから、もっと高くなりそうなのに……」
「食事したり寝泊りしたりするだけなら、冒険者の宿でなくてもできるからね。ここは、むしろ情報提供料や仕事斡旋手数料がメインなんだ」
カウンターの横には大きなボードが備え付けられ、貼り紙で埋め尽くされている。貼り紙には、「○○の情報売ります」、「○○の仕事あります」などと書かれていて、冒険者がカウンターで申し込み、相応の対価を支払えば、情報や仕事を得られるらしい。
席について、しばらく待っていくと、
「お決まりでしょうか。あっ、先ほどは、どうも……」
注文を取りに来たのは、わたしを2階まで案内してくれた少女だった。
「ああ、あなたは…… さっきはありがとう。子供なのに、よく働くわね」
「実は、父がこの宿のオーナーなんです。だから、お手伝いしないと……」
適当に料理をいくつか注文すると、少女は「かしこまりました」とうなずき、小走りに駆けて行った。カウンターの向こうにいるガッチリとした男に注文を伝え、すぐに別のテーブルに向かう。その男がオーナーで父親なのだろう。体は頑丈そうだけど、顔はハッキリ言って平均以下。パパに似ないでよかったね、みたいな……
しばらくすると、店内では、更に混雑の度合いが激しくなっていった。テーブル席もカウンター席も満席状態で、入り口付近には、順番待ちの冒険者の姿も見える。メイド服のウェイトレスたちは、忙しく店内を立ち回っていた。
そして…… 突然、プチドラが耳をピンと立て、小さく唸り声を上げた。見ると、テーブルのすぐ脇(わたしから見て斜め後ろ)には、今まで全然そんな気配はしなかったのに、黒いマントの男が立っている。
「失礼。差し支えなければ、相席をお願いできないだろうか」
男は言った。それにしても、音も立てずに近寄るなんて、この男、一体、何者だろう。




