北へ
わたしは、まず、グレートエドワーズバーグに向かった。帝都から、帝国の中心部を流れる大河に沿って北上し、北のドワーフの三王国が位置する広大な山岳地帯のへりを回り、ほぼ最短距離で目的地に到達した。
当然のようだけど、北方は寒い。帝都でいる時のような軽装では、凍死とまではいかないにせよ、少なくとも風邪を引いてしまいそうだ。コートを持ってきたのは正解だった。
「マスター、そのコート、なかなか似合ってるね」
「ありがとう。でも、プチドラは、寒くないの?」
隻眼の黒龍は、相変わらず、闇夜のように真っ黒な肌をさらしている。
「うん、全然。鍛え方が違うからね」
鍛え方の問題だろうか。疑問はあるが、それはさておき、隻眼の黒龍は、やがて、市街地から少し離れた平地に降り立った。
グレートエドワーズバーグは、もともと、北方の守りの要として、北の大河の畔に設置された要塞に由来する。巨人の国との抗争が本格化すると、兵站の拠点あるいは戦利品の集積基地として発展し(つまり軍事都市)、町の人口も飛躍的に増えた。
また、巨人の国との戦闘行為がない間は、民間レベルの経済交流が活発に行われ、巨人の国からは木材、毛皮等が、帝国からは穀物、海産物等が、それぞれ輸出されていた。なお、今では、マーチャント商会が巨人の国との交易を独占し、大きな利益を上げている。かつての競合他社は、廃業に追い込まれたか、マーチャント商会の下請けとして細々と命脈を保っていた。
ちなみに、「グレートエドワーズバーグ」という名称は、最近になって改名されたもの。何事につけ、俺様主義の現ツンドラ候が、自らの武勇を讃えるため、町に自分の名のエドワードを冠したらしい。
町は、いかにも要塞らしく、周囲には濠が巡らされ、高い壁で囲まれていたが、わたしは入り口(城門)で通行証を示し、見咎められることも怪しまれることもなく、町に入ることができた。この通交証は、先刻、子犬サイズのプチドラに、旅の行商人らしい男から盗ませたものだ。その男は大いに困ってることだろう。でも、わたしにとっては、そんなこと関係ない。
日は既に西に傾いている。家路を急ぐのだろうか、早足で歩く通行人が多い。
これからどうしようか考えていると、プチドラはわたしを見上げ、
「とりあえず、小切手を現金化して、どこかで宿を探さないと」
「そうね。そうしましょ」
マーチャント銀行の支店はすぐに見つかった。やはり「金貨の山」のシンボルマークが掲げられている。わたしは小切手と引換えの金貨500枚を風呂敷包みに詰め込んだ。
さあ、早く宿を探そう。




