ヤバそうな予感
「それで、この前に話したように……」
帝国宰相は小声で話を続けた。
「皇帝陛下の御落胤の噂の真偽を確かめてほしいということじゃが……」
「でも、その話がウソだったら無駄骨ですが……」
「その時は仕方がない。後になって『認証状を返せ』とは言わんから、安心せい」
宰相は自信たっぷりだ。噂が100%真実という確信があるのだろうか。あるいは、その御落胤というのは、宰相自身がでっち上げたものなのだろうか。自分が御落胤を発見するのでは、いかさまが見え見えなので、第三者に発見させることによって、話に真実味を持たせようという魂胆か。
ただ、たとえいかさまだとしても、報酬を先にもらっている以上、断るわけにはいかないが……
「ところで、御落胤がいるのが北方で、場合によってはツンドラ候の領内かもしれないということは、わたしとしては、ツンドラ候の援助を当てにできると考えてよいのでしょうか?」
「いや、御落胤の捜索については、くれぐれも内密にしてもらいたいと思っておる。実に申し訳ないが、誰の助力も得られないという心づもりでいてもらいたい。ついでに言うと、噂では、御落胤の背中にはハート型のあざがあるそうじゃ。手がかりになるかもしれんな」
なんとも困難な任務を言い渡されたものだ。「ハート型のあざ」といっても、御落胤を捕まえて身体検査をしなければ分からないことが、(自然と)噂になることはないと思う。今更言っても、仕方がないことだが……
「分かりました。御落胤捜索に向かいます。とりあえずは、旅費等の必要経費をいただければと……」
「必要経費じゃと? うむ、そうじゃな、言われてみれば、そのとおりじゃ」
帝国宰相は懐から紙とペンを取り出し、サラサラサラっと何かを記入した。
「これはマーチャント銀行の小切手じゃ。金貨500枚分ある。ツンドラ候国の都、グレートエドワーズバーグに支店があるから、そこで現金化すればよかろう」
すんなりとお金を出してくれるとは、正直、意外。宰相はもっとケチだと思っていたが……
帝国宰相から小切手を受け取った時、突然、プチドラが耳をピンと立てた。そして、わたしの腕の中から地面の上に飛び降り、クルリと周囲を見回した。
「プチドラ、いきなり、どうしたの?」
「今、誰かの気配を感じたものだから。でも、気のせいかな」
「まさか、今の話を盗み聞きされてたとか…… 最初から聞かれてたら、マズイわね」
「いや、ボクの思い過ごしだったのかもしれない」
単なる思い過ごしならいいけど…… なんだかイヤな感じがする(具体的な危険という意味ではなく、話の流れ的に)。そもそも、御落胤の話のような、スジの悪い話に乗ったのが、間違いだったのかもしれない。




