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「分、お帰り。随分遅かった……、……」
コクウは私の何も持っていない両手にしばし視線を落とすと、「売り切れだったんだな」と気遣わしげな笑みを見せた。あれから色々と歩き回ってみたのだが、(試験管については諦める事にした)、食べられそうなものを見つける事は出来なかった。たまに住人には出くわせたのだが、皆食べる物にも困っているような有様で……今更、自分がどんなに役立たずか痛切に思い知らされる。
「……すまない」
「仕方ないよ、分が謝る事じゃない」
「だって、私は君達の保護者だ。こんな時こそ君達を守ってやらなくちゃいけないのに……」
言葉を並べ立てながら鼻が痛くなってきた。こんな言葉を並べたって何が変わるわけじゃない。それなのに、役にも立たない言葉を並べ立てる事しか出来ない。情けなさに涙が出そうになったが、コクウはそんな私の肩を慰めるようにポンポンと叩いた。
「分、そんな事程度で落ち込むなって。俺達だって何も考えていないわけじゃない」
「そんな事じゃないかと思って、納屋から色々探してきたよ。スコップとか、鍬とか、ジョウロとか支柱とか」
「これで土を耕せばさ、畑ぐらい作れんじゃないの? 町外れに行けば野草か何かあるだろうし」
「アマラねー、果物の種持ってるよ~、りんごとか~、スイカとか~、メロンとか~、カボチャとか~」
子供達の声に、私は俯いていた顔を上げた。セイジョウが、アラヤが、アマラが、みんなが、私を勇気付けるように私を囲んで立っている。
「分がいなくなってからさ、みんなで話し合ったんだ。もしかしたら食べる物はないかもしれない、だからやれるだけの事はやろうって。分はテンパっちまってそこまで気が回らないだろうから、とりあえず準備だけはしておこうってさ」
「…………」
「分、確かにお前は俺達を引き取ってくれたけど、俺達はお前に守られてるだけじゃなくて、助け合って生きていたいんだ。だって俺達家族じゃないか。一人で悩んだりしないでくれよ。家族なんだからさ、俺達の事も頼ってくれよ」
「分があたし達を家族だって思っていればだけど」
「まさか家族じゃないとか言わないよな?」
「え~、分はアマラの家族じゃないの~? やだよそんなの~。家族じゃないって言ったら泣くんだから~」
そう言って裾にしがみついてきたアマラに、私はいよいよ涙を零した。アマラが大きく目を見開いて、一層強く私の服を握り締める。
「ぶ、分~、どうしたの~? どこか痛いの~?」
「ち、違うよアマラ……嬉しくてさ……君達と家族で、すごく嬉しいんだ……」
「…………、……ったく、そのぐらいで一々泣くなよなぁ、大体分が頼りないってのはすでにわかってる事なんだし」
「料理も裁縫も出来ないし」
「縄跳びだって飛べないし」
「幼稚園児並みの画力だし」
「うっ……」
「でも、アマラはそんな分が好き~」
ぽすり、と小さくても確かな温かみが私を抱き締め、余計に涙が零れてしまう。全く何時の間に、この子達はこんなに大きくなっていたのだろう。
そうだ、例え世界が滅びたとしても、みんなで力を合わせれば生き抜く事は出来るはずだ。最初は五人の小さな畑でも、徐々に町の人々にこの輪を広げていく事が出来れば……青臭い理想かもしれないが、どんなに青臭く儚い理想だって、諦めてしまえば本当に儚い理想で終わってしまう。それに私には、この子達がいるんだから、それだけで十分希望を持って生きていける。
「す、すまない、泣いたりなんてして……そうだね、やろう。みんながせっかくやる気を出してくれているんだから、私も頑張らなきゃいけないね。それじゃあ、さっそく取り掛かるかい?」
「いや、悪いけど俺らも納屋の整理とかで疲れたから、今日は早めに休んで明日から取り掛かる事にしようよ。俺と分とアラヤで土を耕して、セイジョウとアマラで食えそうな野草や山草を探す……でどうかな」
「え~。アマラも畑つくりたい~」
「アマラ、食べるものを探すのも十分大事な仕事なんだ。あたしの事も手伝ってよ。それとも、あたし一人で町外れに行けって言うの?」
「う、ううん! わかった! アマラはセイジョウを手伝うの~!」
「それでいいかな、分もアラヤも」
「僕はそれでいいよ」
「私も」
「よっしゃ! それじゃあ明日から頑張るぞ!」
そう言ってコクウが右手を差し出し、そこにセイジョウ、アラヤ、アマラが手を重ね、私が最後に手を乗せた。この子達がまだいてくれるから、私はまだ希望が持てる。希望を持って生きていける。
そう思った。