プロローグ
この禍々しき怪物は地獄の業火に焼かれながら、それでも天国に憧れる
―ガストン・ルルー著 『オペラ座の怪人』
もう、二度と会える事はないのに、そうなってはじめて色々な言葉が出てくるのは、きっと僕が救いようもない大馬鹿者だからなんだろう。「やっとわかったの」なんて君の声が聞こえてきそうな気がするよ。そんな、君の聞くのも辛い、聞いただけで胸が千切れていくような言葉さえ、もう二度と聞く事はないと思うと惜しくなるのは何故なんだろう。惜しむくらいならそうなる前に惜しんでいれば良かったのにね。全く、僕は大馬鹿者だ。本当にどうしようもないヤツだ。
けれど、僕は大馬鹿だけど、こうやって様々なものを見てきてさえも、結局、僕は、何もわかっていないだけかもしれないけれど、それでも僕はやっぱり、人間を嫌いになる事なんて出来なくて、この世が天国であればいいって、そんな事を思ってしまうんだ。どんなに愚かだと言われても、妄想主義者と聞かされても、弱くても、醜くても、汚くても、浅ましくても、結局人間は自分と他人を傷付けて、ボロボロになって、そうやって生きていくのが性なんだってそんな風に言われても、それでも、やっぱり、なんとかして、みんなが幸せになればいいって、そう願わずにはいられないんだ。僕のこんな考え方こそ、愚かで、弱くて、救い難くて、どうしようもない、綺麗事で塗り固めたエゴなのかもしれないけれど、僕はやっぱり、それでも、どうしたって、人間だから、人間として見ず知らずの他人の幸せを願うんだ。君はきっと、それでも「わからない」ってそう言って、顔を歪めて酷い言葉で僕を否定するだろうけど、僕はそれでも、願ってる。君の幸せも願ってる。現実に何度「そんなものは叶いもしない絵空事だ」って砕かれたって、僕は馬鹿な子供のように、誰もが幸せに微笑んでいる儚い天国を夢に見る。