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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

四角が嫌い

作者: 五十嵐 涼

 僕は四角が嫌いだ。


何故って?だって、地球は丸く、しかも円を描きながら動いているというのに。


いや、地球だけでなく宇宙全体が円形で溢れているというのに、僕らの日常には四角が溢れている。


おかしいだろ。なんで四角ばかり造るんだ。


僕らの日常、つまり人間が造ったものはどれもやたら四角い。


家も建ち並ぶビルも、看板もスマホも電車も、どこを見てもそればっかり。


特に学校は最悪だ。


黒板に机にロッカーに下駄箱に教科書にパソコン。


学校に行くと考えるだけでお腹が痛くなる程だ。


それでも僕の親は頭が固い人達なので不登校なんて許さず、僕はしぶしぶ毎日学校に通っていた。


ただ、電車には乗りたくないので40分かけて自転車で通学している。


CDウォークマンに丸いヘッドフォン。


これが最強の相棒で通学中だけでなく休み時間もずっとこいつらと一緒だった。


まぁ、つまり僕には友達がいない。一人も。


その理由はあり過ぎていちいち挙げられないが、強いていえば高校生にもなってスマホを未だ所持していない事と、僕がデジタル人間嫌いだからだろう。


だいたい友達って何だよ。


スマホやパソコン画面上にいる人物の事をそう呼んで、現実に自分の目の前にいる人間の事は放ったらかし。


四角い画面がないと繋がれない相手が友達なら僕は友達なんて一人もいらない。


と思っていたら、そんなヤツは僕ぐらいらしく、完全に孤立状態となっていた。


「うー結構さぶくなってきたな」


11月も後半に入り、最近めっきり朝晩は冷え込んできた。


真夏よりはマシだが、それでも自転車通学が辛くなってくる季節が確実に一歩ずつ近づいて来ていた。


「さすがにもう居ないよな」


自転車を走らせながらも横目で建ち並ぶ家々を見る。


ここら辺は昔から住んでいる人が多く、古い一軒家が建ち並ぶ住宅街だった。


住宅街といっても、もはや錆びれてしまっており、空き家なんかも結構ある様な地域だ。


4月に入学して以来毎日ここを通っているのだが、ひと月くらい経った頃からだろうか。


いつもあの角の家の近くまで行くと待ち構えていた様に塀の上にぴょこんと一人の少女が立って過ぎ行く僕をじっと見送ってくる様になった。


あの塀は自転車に乗っている状態の僕よりも高いので、きっと庭に脚立か何かを用意して登っているのだろうとは思う。


しかし、猫でもあるまいし、よくあんな高さの場所に立っていられるなと感心する反面、落ちてしまわないかヒヤヒヤしてしまいどうしても少女が気になってしまった。


少女は中学生くらいだろうか?いつもヒラヒラの赤いワンピースを着て、そして何故か裸足だった。


塀の上に立つ裸足の少女なんていったら、普通に考えたらお近づきにはなりたくない危険な感じがするが、そんな事を払拭出来る程の可愛らしい見た目を彼女はしていた。


「わっ、出て来た」


そんな風に少女の事を考えていたら今日もひょっこり姿を現した。


さすがに少し寒いのだろうか、ワンピースの上に赤いカーディガンを羽織っていたが足はやはり裸足だった。


木の葉を舞い散らす風に彼女の腰まである黒髪がキラキラと揺れた。


一瞬だが僕と彼女は目と目を合わせ見つめ合い、そしてそのまま僕は自転車で通過して行く。これがずっと続く僕らの日課だった。

 


 そんな風に毎日が過ぎ、気付けば今日は今年最後の登校日。


しかし、天気は最悪で今日は朝から雪がパラついていた。


「もう授業もないし、今日くらいは休みたいなー」


一瞬そう思ったが、もしかして今日も彼女がいるんじゃないかと、そして冬休みが開けるまでは会えないんじゃないかと思うと、俺はいつの間にか支度を済ませ、自転車を走らせていた。


外はすっかり真冬の空で、吐く息は白く、頬に当たる冷たい雪の粒は痛いと思う程だった。


「雨の日でも居たけど、でも今日は雪だからさすがに…」


会いたいが、こんな寒い中僕が来るのを外で待っている事を思うと会えなくてもいいかな、などと僕の頭の中ではそんな事ばかりがずっとグルグル回っていた。


ふとハンドルを握る自分の手を見ると寒さで真っ赤になっていた。


「この寒さで外はヤバい。やっぱり会えなくていいや」


そう思って少女の家に近づいたその時、赤ずきんみたいなコートを着た彼女がいつも通りの所定の位置に立ったのだ。


「いた!」


思わず急ブレーキをかける。


しかし、道路は雪で滑り易くなっておりそのまま横転してしまった。


体ごと地面に叩き付けられる形で倒れ、更に自転車は僕から離れそのまま十字路まで滑って行くと右側から出てきたワンボックスカーに勢い良く轢かれてしまった。


「あわわわ、あぶねっ」


「ギリギリだったわね」


可愛らしい声でそう言うと少女は塀の上からひらりとこちらに降りてきた。


あの高さから着地して、しかも素足だというのに痛くないのだろうか。


しかし、彼女は全く気にした様子はなく僕に向かって歩いてくると、そっと手を差し伸べてくれた。


「立てる?」


「あ、うん、ありがとう」


彼女の手を借りて何とか立ち上がると、いつも上から見下ろされてばかりで分からなかったが僕の胸くらいまでしかない小柄な少女だという事が分かった。


肌の色は雪よりも白くその姿はまるで妖精の様だ。


「良かった。身長は私の計算通りっぽいわね」


「???」


彼女の意味不明発言に頭の中が?でいっぱいになったが、しかし、近くで見ると益々の彼女の美少女っぷりにそんな事はどうでも良いと思える程だった。


それより、これはチャンスとばかりにずっと思っていた事を僕は思い切って彼女にぶつけてみる事にした。


「あ、あのさ」


「なぁに?」


「いつも塀の上に立っていたけど、何をしていたの?」


「え…何って、あなたを見ていたの」


そう言うと彼女は頬を紅潮させ、さっと目を逸らした。


そのモジモジとしている姿も何と愛らしい。


(こ、こんな可愛い子が、俺の為に毎日毎日立っていてくれたのか!?)


それは僕が生まれて初めて女子から告白された最高の瞬間だった。


僕は心の中で神様に感謝の言葉をこの一瞬で20回は言ったと思う。


「私ってね、ちょっと変わっていてね」


ちらりとこちらを見ながら彼女は恥ずかしそうに言った。


「そ、そそうかな」


(そうだねとは言えないが、確かに変わってはいそうだ)


「いつも家の前を通る人を見ては探していたの」


「探していた?」


「そう、あなたみたいな人を」


「えっっ。そ、そっか」


これはもしかして夢なのじゃないかと疑ったが、先ほど横転した時の痛みがあちこちからジンジンと伝わってきていたのでそれは無いと確信出来た。


「私ね、実は究極の四角フェチで、四角が大好きなの。四角いものに囲まれて生きている事が幸せなの。でね、あなたの中にも同じものを感じたのよ。これはきっと運命よね」


しかし、それは残念な事に全くの正反対で僕は四角が大嫌いなのだが、どうしても、どうしてもこの子をガッカリさせたくなく、そのままその場は黙っておいた。


「でね、あなたにはどんな四角が似合うかなって毎日考えていたの。出来るだけあなたにピッタリの四角を用意したくて実際のサイズを知りたかったから、少しでも近くにと思っていつも塀から見ていたの。それからこっちを見て欲しかったというのもあるわ」


「そ、そっか。そんな事なら呼び止めてくれたら良かったのに」


「呼び止めてしまったら自転車の速度が落ちるじゃない。それじゃあ意味がないわ」


「?」


「うちのすぐそこの十字路は交通事故が多くてね。だから私に気を取られてそのまま車に轢かれたあなたを私が造った四角、つまり棺桶に入れてあげる日をずっと夢見ていたの」


「!!!!!?」


「いつも赤い服を着ているのもその為よ。あなたの血が服に付いてもこれなら平気でしょ?」


「なっっ!!」


よく見ると彼女は僕に手を貸してくれた方とは反対の手をずっと後ろにしたままだった。


まるでナイフか何かを隠しているかの様に。


「う、うわぁぁぁぁ」


逃げる様に走り出した方向が運悪くその十字路の方だった。


「しまった!」


横を見るとこちらに向かって来ている乗用車が僕に向けて激しくクラクションを鳴らしていた。


(四角なんて、大嫌いだ!!!!!)



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