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もしも一妻多夫制ができたらの話

作者: 赤オニ

 二十七歳、未婚。今の世の中で言えば、”負け犬”に部類されるだろう。一妻多夫制度が制定されてからと言うもの、いい男は世渡り上手な女にとられ私のように特に秀でたところのない平凡な女が次々と余っていく。


 会社で一番美人と言われている高橋さんは、何と旦那が七人もいるんだとか。あなたはアラブの富豪ですか? と言いたくなる。その高橋さんは、男に甘えるのが上手で旦那が七人いても争いが起きないよう常に細心の注意を払っているんだそう。そんなんで家にいて休まるのかな……何て心配をしているから私は売れ残りになってしまったのだろうか。


「峰さんって、未婚なんでしょー? 家帰るの寂しくないのかしら」

「ホントよねー。高橋さんには及ばないけど、うちでも三人は旦那いるもの」


 峰、私の苗字だ。トイレの個室に入ったと同時に、同期の波部さんと柚木さんがトイレに入ってきたので、慌てて息を殺し気配を絶つ。こんなことやってるから、同期に「峰さんって気配薄いよね」などと言われるんだろうか。しかし、自分の悪口を言われてる中個室から出る勇気もないチキンな私は二人の会話を息を殺しながら聞くことになってしまった。


「うちだって五人はいるわよ。今の時代で二十七の未婚はもう、売れ残りよねー」

「大体二十代前半なら男五人ぐらいは捕まえておかないとね!」


 鼻息荒く話す柚木さんに、思わず小さくため息を落とす。ハイハイ、どーせ旦那が三人も五人もいるような人からしてみれば私は負け犬の売れ残りなんでしょうね。こんな悪口、言われ慣れてる。今更だ。


 二人が長い悪口大会を終えてトイレを出て行ってから、時間を置いて私も個室から出てトイレの大きな鏡を見つめる。

 中肉中背、目は二重だけどそんなに大きくないし、唇もどちらかと言えば薄い。色っぽくないよなぁ……。一応リップはつけてるけど、同期の女の人の唇は厚みがあって色っぽい。目もくっきりぱっちり二重だし。私とは大違いだ。思わず、またため息を落とした。


「あれ、峰先輩。今日も残業ですか?」

「ああ。仕事、終わらなくて」


 後輩で割とモテる桂君に声をかけられる。


 実を言えば波部さんと柚木さんの仕事を押し付けられたのだけれど、わざわざ言う必要もないだろう。言うだけ、惨めになる。二人は「私らは旦那がいて大変なのよー。峰さん独身だから別にいいでしょ?」と言う嫌味つきで仕事を押し付けてくれやがったのだ。仕事を頼む、ではなく押し付ける、のだから嫌味つきでもいいと思ってるのか。それでも断れない私は根っからのチキンだった。ちなみに二人はもうとっくに定時で帰っている。残っているのは、私と桂君の二人だけ。桂君は、まだ仕事に慣れていないのかよく残って仕事をしているのを見かける。同期に仕事を押し付けられて嫌々残業してる私とは大違い。見習いたいものだ。


 桂君が、空いた席に座る。


「峰さんって、すごいですよね」

「え? 何が?」


 桂君の言葉に、手を口元にあて首をかしげる。やってから後悔した。いつもの癖で、つい……。この仕草は可愛い女の人や美人な人がやるから様になるのであって、決して私のような平平凡凡な女がしていい仕草ではなかった! 

 思わず頭を抱えたくなったが、桂君は気にしない様子で話を続ける。


「だって、人が嫌がる仕事とか率先してやるし。遅くまで仕事してるし。尊敬します」


 やめておくれ、私は君のように純粋無垢な気持ちで仕事をしてるんじゃないのよ……今日の残業だって同期に仕事押し付けらたって言う情けない理由だし、嫌がる仕事だって上司に「お前ならできる!」って迫力のある笑顔で言われるから断れずにズルズルやってるだけだし。桂君、私は君が思ってるほど綺麗な人間じゃないの。


 会社の皆は、私が二十七で未だに未婚なのを蔑んでいる。表に出さなくても、そう言う感情はバリバリ伝わってくるものだ。

 どうせ独身だから仕事押し付けてもいいだろう。そんな気持ちが透けて見える。押し付けられた仕事をキッパリ断ることのできる人間なら、二十七で未婚なんかじゃないんだろうか。そんな淡い希望を抱いても、チキンな私には断ると言う選択肢などなく……ほとほと情けない。


「あと先輩って……押しに弱いですよね?」


 うっ、後輩にすらバレてる……情けない。


「僕も、押せば先輩と付き合えますか?」

「は……い……?」

「ああ、もちろん先輩の嫌がることはしませんよ。清きお付き合いを……とは言いませんけどね。僕もそう言う年頃ですし?」


 そう言って片目を瞑って見せた後輩に、末恐ろしいものを感じた。こいつ、自分がイケメンなのわかっててやってやがる……。


「悪いけど、私一生独身貫くつもりだから」


 思わず、そんな言葉が飛び出た。普段こんな強気な発言なんてしないのに、自分の容姿の良さがわかっていて、それを利用するやつは好きじゃない。腹が立って、つい。


 桂君は暫く茫然としてたけど、突然笑い始めた。ぎょっとしてコロコロ椅子に座ったままゆっくりと後ずさりすると、桂君はひとしきり笑い終えてじりじりと距離をつめてくる。 

 その顔には、悪巧みをするような笑みが浮かんでいる。


「先輩の意外な一面見ました。やっぱ先輩好きだなぁ……。これからガンガン押していくんで、覚悟してください。あと、僕が好き好んで遅くまで仕事してたの、峰先輩に声かけるためだったんですよね。それじゃ」


 それだけ言うと、桂君は颯爽と帰って行く……かと思いきや、踵を返して戻ってきた。


「やっぱ送ります。こんな遅い時間に一人で帰らせません」


 がっちりと腕を掴まれ、私は逃げ場を失った。


『これからガンガン押していくんで、覚悟してください』


 まさしく有言実行。やっぱりこの後輩末恐ろしい……。

母親との会話で、もしも日本が一妻多夫制になったら面白そうだよねーってなったので小説にしてみました。

本当は高笑いしながら主人公をバカにする厭味ったらしい女の人がでてくる予定だったのですが、今時「おーほっほっほっほ」なんて高笑いする人はいないと思うので、やめました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 設定が宙ぶらりん [一言] 別段一妻多夫の設定が無くても問題ないですね
[一言] ん~子供の相続とか考えるとカオスだよな^^; 現代ならDNA鑑定で確定はできるが、自分の血をひかないのに遺産をやるのはな・・・ それと一妻多夫制のメリットがわからん。 一家庭の収入って点は…
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