5話 良薬口苦し
若干の説明回
昨日は結局ハヅキのところで一泊してしまった。やたら甘えてきたんで思わずハッスルして計7回戦も戦ってしまった。若さってすごいなほんと。腰がちょー重いし、太陽が黄色く見える…リア充万歳。アイリとミリーが心配してるかも…リア充万歳。
風呂には結局入れずじまいで、朝に軽く濡れタオルで体を拭いたんだけど汗とかなんやらでベトベトする。ひょっとしたら臭いも残ってるかもしれない。風呂に入りたい。でも公衆浴場はなー、人前で脱ぎたくないしリラクッスできないからなぁ…あっフーじいさんのとこ行けばいいじゃん。風呂も入れて怪我の治療もできる。うんそうしよう。
この世界の医療技術ってのは地球のそれと比べるとだいぶ遅れてる。抗生物質なんて発明されてないし、外科手術の技術も拙い。怪我に治療には沸かした水を使ったり、縫合に使う針なんかを火で炙ることは知られているようだが科学的根拠に基づくものじゃなくて経験からくる知識のようだ。先人の知恵、おばあちゃんの知恵袋っていう膨大な過去の経験の蓄積を応用、活用して生活にいかしているようだ。
魔法っていうファンタジー技術も医療にはあまり貢献できていない。壊すより治すことの方がはるかに難しいからだ。技術大国日本でも、ガラスを作ることはでき、またそのガラスを割れても、割れてしまったガラスを元通りに直すことはできない。同じ理屈だ。魔法は決して万能じゃない。死ねば生き返らないし、内臓が傷つけば助からない、手足がちぎれれば一部の例外を除いて生えてくることはない。一部の魔法使いや神官、巫女なんかは治癒の魔法を使えるそうだが、大物貴族のお抱えや教会の奥に隠されているらしいのでお目にかかったことはない。エリクサー的な万能薬もあるにはあるらしいがほとんどが偽物で、本物はこれまた貴族どもがかかえこんでいる。ごくごく稀に市場にでまわることもあるそうだが目ん玉が飛び出るような値段だそうだ。
そんなわけで医者ってのはだいたいがヤブだ。本人たちはヤブのつもりはないんだろうが、日本基準でいえば助かるはずの命を散らしてしまっているので俺からすればヤブがほとんどだ。そんな中にもブラックでジャック的な医者はいる。謎の中国人っぽいフーじいさんだ。地球でいうところの東洋医術的な治療をしてくれる。指圧や鍼、お灸をつかった゛つぼ“への刺激、力技やストレッチを用いた骨の矯正、内臓機能の強化や代謝促進、リラックス効果を目的とした漢方的ななにか。正直痛いし、熱いし、臭いし、不味いしではじめての治療のときには、このくそじじい刻み殺してやろうかと真剣に思ったものだが、治療後はあら不思議、肩こり、右手の痺れ、腰痛、ドライアイ、下痢といった俺を悩ませてくれていた症状が覿面に改善された。高い金と痛い思いをした価値は十二分にある。
日本にいたころ、趣味で格闘技を嗜んでいたんだが、当然怪我がつきものでしょっちゅう整体治療院だの接骨院だのに通っていたがあまりいいところに巡りあえなかった。道場の先輩に訊いてみると「接骨院とかでの治療は合う、合わないが激しい。俺に合うとこでもお前にはどうかわからん。なんでいいところを見つけるコツを教えてやる」と教えてもらった。フーじいさんの治療院は教えてもらった“いい治療院”の条件をクリアしていたので試したみたんだけど大当たりだった。先輩ありがとうございます。
「リョウくんワタシが前に言たことおぼえてるネ?食事のときは右も左もバランスよく使って噛まないと駄目ネ。左側ばかり使うからまた顎がずれてるヨ…頭蓋骨もその影響でずれててるネ…ちょと痛いけど我慢ネ」
えっちょっとまってこころのじゅん「あがっ」
「軸足に負担かけすぎヨ、骨盤に歪み出てるヨ…ほいと」
「ひでぶっ」
「普段の姿勢悪いネ、猫背よくないヨ」
「あべし」
「お腹の調子よくないヨ、下痢してるネ…このつぼ刺激するといいネ。鍼さすヨ、動くと危ないヨ、動かないでネ」
そ、そんなふといのはいらない……ら、「らめー」
「これ塗ると体の疲れとれるヨ、じっとしているネ」
いや、やめてそんな白くてドロドロした生臭いものなんてぶっかけないで…「おぇっ」
「リョウくんあまり調子よくないネ、近いうちにまたくるヨ。治してあげるからネ」
もう無理っす…
先輩の言っていたいい接骨院、整体院を見つけるコツはあります。ただ合う合わないは人によりけりなんで記載しませんでした。