3話 鍛冶屋の親爺
「おいーす」
声をかけてから店に入ったのに返事がかえってこない。そもそも店番がいない。あいかわらず客商売を舐めた店だ。
うちの親父はサービス業、某食品メーカーのセールスで量販店やコンビニに営業でまわっていたんだが、その時流通業界のいろんな裏話を教えてくれた。生活習慣や文化様式がここサレムの町と地球じゃ違うんだから、接客についても当然違いはあるだろうが、ここ゛ゴンズの矛と盾“はサレムの町の商売の常識からも逸脱している。
そもそも店主の気が乗らないと店を開けない、店内は整頓が全くされていないむしろ掃除もしていない、気に入らない客にはモノを売らない、値段設定が適当で同じ商品でも日によっては2倍も3倍も違う、客に暴言を吐くなんてのは当たり前でイカレタ店として有名だ。昔の日本でも職人気質の人なら似たような商売をしていたんだろうが、よっぽど腕がなけりゃ食っていけないだろう。ちなみにゴンズの親爺の腕はいい。だからこそ許されるやり方なんだろうが。
「おいっ!親爺でてこい!客がきてんだぞっ」
「うるせーバカヤロウ!ちょっと待っとけこのヤロウ!」
大声で呼びかけたらようやくかえってきた返事が「うるせーバカヤロウ!」とはなかなか趣深い…ぶっ殺してやろうかしら。
待たされること5分ほど、ムキムキでパンイチ、スキンヘッドの50すぎのいかついおっさんが酒と汗の臭いをふりまきながらのそのそとやってきた。確実に酒飲んで寝てやがったな。
「リョウの坊主じゃねぇか。二日酔い頭がガンガンしててよぉ、今日は休業だ。さっさと帰んな」
「いやいやおかしいだろう、だったらなんで待っとけって言ったんだ、わけがわかんねーよ!」
「んぁ?おらぁそんなこと言ったかぁ…ならしょうがねぇ。今日はどしたぃ?」
まじで酔っ払いはめんどくさい。まあ引き受けてくれるんならなんでもいいか
「装備一式の手入れを頼むわ。あ、あと厳鉄を粒で500発ほど売ってくれ」
鉈、手甲、足甲、兜と装備一式をカウンターに置くと親爺は、
「また荒っぽい使い方しやがってバカヤロウが。こんな風にしてちゃぁ装備もおめぇもすぐに潰れちまうぞ。体の方にも負担がきてるんじゃねぇのか?」
じろりと睨まれる。
「長生きしたけりゃぁもうちょい考えるんだなっ」
三日後に取りに来いというとこちらを振り返りもせずにさっさと鍛冶場に向かってしまった。流石昔は一流の冒険者様、よくわかっていらっしゃる。
実際今回の山賊との戦闘で相手からの攻撃で傷を負うことはなかったが、自分の無茶な動きで少々右の肘と手首を痛めてしまった。我慢できないほどではないが無視できるほどではないので治療院に行っておこう。
口と態度こそ悪いが俺のことを心配しくれる親爺…こうゆうのもツンデレっていうのだろうか?