31話 害虫駆除2
戦闘回です。
一人称での描写が難しいです。
適当に木々がひらけた、日中なら日当りがよさそうな場所で大岩を背に立ち回る剣士が一人。周りには斬り伏せられたゴブリンと森オオカミが合わせて20匹ほど。右足と左手に噛付きでも喰らったのか血を流した痕があるけど、出血も止まって、万全とはとても言えないけどまだまだ闘志は衰えていないご様子で、効率よく動きコボルトを切り伏せる。
バゲルなんちゃらとかいう名前のアイマミ侯爵から付けられたタマムシの補佐官。剣の腕はカークス流の【許状】で頭の方もそこそこにキレ、脳筋単細胞のタマムシに足りないところを補う女房役。あまり目立った動きはサジエラ領軍内で見せていないが、特に問題らしい問題が発生していない点において非常に優秀な人材といえるだろう。
他のお供と違い、状況をしっかりと把握し傷を負いながらも生き残っていることで【許状】も伊達じゃないことを証明している。派手さこそないが無駄のない動きと剣捌きでコボルトの攻撃をいなし、返す刀で致命傷を与えてる様子は熟練の剣士の風格を漂わせている。攻めよりも守りに主眼をおいた振る舞いは、生き残るために何をすればいいか適格に判断し実戦できている証だろう。
強い。
「いやー、見事な剣ですね。勉強させてもらいました。」
最後のコボルトを切り伏せたところで拍手をしながら木の陰から進み出ると、戦闘が終わり緩みかけていた気持ちを瞬時に引き締め直し鋭い視線を飛ばしてくる。
「なぜ態々姿を現す。声など掛けず気配を消して襲い掛かれば、貴様の腕なら容易く俺を討てたものを。」
「それでも良かったんですけど、あなたの剣が綺麗だったもので…是非カークス流を教えて頂ければと思いまして。
ほら、俺卑しい傭兵ですから、正統派の剣術なんて学んだことがないんで。
あなたならちょうどいい教材になるかと。」
「驕るなよ小僧がっ!」
怒声とともに剣を上段に構えて突っ込んでくる。怪我や疲労を感じさせない素晴らしい踏み込みだ。ちょうどいい練習台とバカにされたことで頭に血が昇ったのか先ほどまで見せていた効率重視の剣ではなく荒々しさを感じさせる力強い剣だ。俺として褒めたつもりだったんだけど。
上段からの斬り下ろしを下がって躱すと更に踏み込んでの下段から斬り上げ、これも後ろへ距離をとると間髪入れずに胸を狙っての突き。一連の動作に淀みはなく決まった型をなぞっている印象を受ける。大きく後方に跳んで躱すと再度上段からの斬り下ろしで追撃してくる。今度はこちらから踏み込みながら左に体をずらして、躱しざまに右足で相手の右膝を踏み抜く。
「がああっ」
反応良く回避をとろうとするも一瞬遅く関節にダメージを負ったようだ。避けきれなかったとはいえ、回避行動ができただけ十分に素晴らしい。バゲルなんちゃらの技量ももちろんあるんだろうけど、カークス流の動きにはこのような場合も想定していることが窺える。伊達に実戦派を名乗り王国でも地位ある剣術流派というところか。
「なかなかに素晴らしい動きですね。膝をぶち壊してやろうと思ったのに、躱されるとは思いませんでしたよ。」
「舐めるなっ。お前は必ず八つ裂きにしてやる。」
「ははっ、その意気です。もっと俺にカークス流を教えてください。」
「ぅぅうおおおっ」
軸足を壊されて踏ん張りが利かないだろうに怒涛の連撃を放ってくる。
一撃一刀全てに必殺の気合が感じられる。まあ、当たらなきゃ意味ないんだけど。
カークス流の印象は一撃の威力重視とたとえ躱され、防がれてもそこから詰将棋のように相手の動きを封じ命を刈り取りにくる連係。
一見、一撃必殺と細やかな連携とは矛盾しているようだけど、鍛えた肉体と技がそれを可能にしている。俺の弟子バルムをはじめとした【免状】とは別物の完成度だ。カークス流で怖いのは【許状】から上ってことか。
型も結構見せてもらったしそろそろいいかな。
「ありがとうございました。カークス流のこと少しですがわかりました。
それでは」
「ふざけっおぐぅっ」
振り下ろされる手首を掴んで足を払い相手の勢いを利用して頭から投げ落とす。
変則型の支え釣り込み足。
受け身もとれずにバゲルなんちゃらの首は負荷に耐えられず明後日の方を向いてしまった。
この世界というかこの周辺国には柔道とか柔術に当たる投げ技や関節技、組打ちの技術が発展していないようでおもしろいように決まる。まあ乱戦や魔獣が相手では使い辛いところはあるけど、日本で学んだ技術が発揮できることは嬉しい。
バゲルなんちゃらさん、あざーす。
一応お宝チェックしとくかな、時間もまだまだあるし。
バゲルなんちゃらの防具やらをはずして上半身をむく。むさいおっさんを裸にするとか結構精神的にくるものがあるな。おまけに汗やら血やらでかなり臭いし。出てこんかったら悲しいものがある…まあ、ダメ元とはわかってるけど。
【カチ割り】で慎重に胸を切り開く。心臓が止まっているおかげで無駄に血が噴き出すことはないけどそれでも濃い血臭が薫り、手を血で汚す。戦場の匂いだ。
左手で心臓を握り潰すと、臓器とは違う堅い感触に思わずにやけてしまう。
爪先ほどの大きさだけど間違いなく魔結晶だ。身体強化もそこそこだったしあるかなーと思ったけど当たりだったみたいだ。
タマムシ、ナナフシ、メスゼミも間違いなく持っているだろうし、今回は大きな黒字だな。
開胸されたおっさの死体に馬乗りになって心臓を握り潰しニヤニヤする俺………どう贔屓目に見ても頭いっちゃてる系の殺人者。シリアルキラーと呼ばれても誰にも文句は言えない。見る人が見れば死姦趣味のホ○ヤロウ。いかんいかんさっさとお暇しよう。誰かに見られたいらん誤解をされてしまう。
次はメスゼミだ。
「ああーもうどこなのよここはっ!
うざいうざい死ね死ね死ねっ!
最悪よ最悪!
あああああああああああああああ!」
金切り声をあげて盛大な自然破壊に勤しむ基地外そこにいた。
周囲には風の魔法で切り刻まれた木片にゴブリンなどの魔獣たちの残骸。
赤ん坊が癇癪を起したようなといえば分かり易い状況だと思うけどスケールが違いすぎる。パワフルが止まらない。今からあいつをぶっ殺すとか、かなりおっかないんですけど。とにかく近寄りたくないんですけど。
無秩序に魔法をぶっ放しているように見えてあのメスゼミ元気一杯なんですけど。どんだけ魔力あんのよ。つかあれ無詠唱じゃねーか。どんだけ高スペックなんよ。あんまり無詠唱の使い手なんて見たことないのに、ここで出会う必要なくね…
まあ殺らにゃならんし、殺りますけどぅうおっ
「こそこそしてるんじゃないわよ!」
闇の中50mの距離をとり木々に紛れ気配を殺して視認不可能な俺に向かって正確に飛ばされる風刃。躱すのが遅れていたらあの木みたいに今頃は俺も真っ二つだったことだろう。あぶねー。
「隠れていることはわかっているわ卑しい傭兵。私の風の領域に侵入してしまったことが運の尽きね。ギムリーの受けた屈辱を晴らしてあげるわ。
細切れになりなさい。」
風の領域ってことは索敵魔法が使えるってことか…火力特化の力押しの脳筋女ではないってことかよ。おまけに常時索敵しつつ攻撃魔法も使えるってまじでどんだけだよ、めんどくせー。ああっ、くそ。
遠距離戦はこっちが完全に不利。俺に遠距離攻撃手段はない。危険を覚悟して接近戦に持ち込むしかない。
距離が縮まればその分、魔法を躱すことは難しくなるけど止むをえんだろう。一番確実なのは今の距離を維持して魔法を躱してメスゼミの消耗を誘って待つことだけどこれだけ派手に暴れていたら、タマムシとナナフシに流石に気づかれる。つか、現状気づかれてこちらに向かって来ている可能性もある。連係をとられたら視界が利かない闇の森の中という俺に有利な状況でも殺される可能性の方がはるかに高い。
ここは危険を承知で接近戦による短期決戦しかない。
行くぞ。




