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30話 害虫駆除

 タマムシ―――ガイダイ=ゴップ、国内に14人しかいないカークス流の【印可】で2つ以上の【スキル】が使える。恵まれた体格から繰り出される剣戟は岩をも砕き、鎧で全身を固めた重戦士を一刀の元に叩き潰すことから二つ名は【圧剣】。

 性格は力こそ正義、強さこそ正しさを地で行く脳筋。女と酒が大好きで度々問題を起こすもカークス流の看板と自身の力で揉みつぶしている…が3年前にとある貴族の庶子に手を出してしまい王都から追放に近い形で逃げ出し、カークス流の支援者であるアイマミ侯爵に援けられる。

 粗野な振る舞いが目立つが反面、身内や下の者に対して面倒見がよいところもあり人によって評価が大きく異なる。また義理にも厚く窮地を救ったアイマミ侯爵家には絶対の忠誠を誓っている。

 表向きは国からの剣術指導武官だが、裏の任務は軍に大きな影響力のあるサジエラ辺境伯家の切り崩し。アイマミ侯爵から預かった部下を引き連れサジエラ領軍内で着実に影響力を増してきた。

 粗野だが剣の腕は確かで面倒見の良さもあり、バルムをはじめとした次世代を担う若手から信頼を得ていたが俺が来たことによって一気に立場を危うくしている。

 領主としても表向きは国からの派遣で無碍にすることもできず苦々しく思っていて、できることなら追い出してしまいたいところだろう。つまりぶち殺しても感謝されることはあっても咎められることはないというかわいそうなおっさんだ。


 ナナフシ―――ビッケル=バウフェス、メザ流【認可】の槍士。長身で一見すると栄養失調を疑われるレベルの痩身で顔色も悪いが【スキル:鎧通し】を操る凄腕。

 流れの武芸者だったところを4年前に槍の腕を買われサジエラ辺境伯家の陪臣に召し抱えられる。

 過去に仕えていた家で陪臣同士の権力争いに敗れて追放された経験があり非常に地位に固執する。主であるサジエラ家に対しては強い忠誠心を抱くが自分の立場を脅かす可能性がある者に対しては非常に攻撃的で、訓練中事故を装い2人の槍士を殺している。

 主家を脅かすガイダイに対して表向きは友好を装うも常に失脚を狙い画策しているという噂がある。ガイダイが認識しているかどうか不明だが。

 領主としては忠誠心の高さと武力を重宝しているが、家臣内の序列や調和を乱す存在として頭が痛いことだろう。


 メスゼミ―――メア=キンバリー、若干24歳にして【魔法使い】の称号を得た才媛。これまでに多くの【魔法使い】を輩出したサジエラ辺境伯家の重臣キンバリー家の長女で重度のブラコン。

 才能のある者でも30代でようやく得られる称号【魔法使い】――1撃で50人以上殺傷できる広範囲魔法攻撃の使い手――を若くして手に入れ、整った容姿もあいまってサジエラ領内では絶大な人気を誇るも、自身の能力の高さ故か他者を見下し、思い通りになれなければヒスを起こす性格から領主もキンバリー家当主も持て余し気味。おかげで26歳になっても嫁の貰い手がない。

 歳の離れた弟ギムリーを溺愛していて、彼が傷つくことを極端に嫌う。ギムリーが訓練中負傷した際には怪我を負わせた領兵を一人、風の魔法で殺害している。その際、領主と父親から激しく叱責され、表面上は反省し遺族にも賠償を支払い謝罪していたが実際には自身の非を認めておらず何故自分が責められたのか理解していない。

 とにかく性格と言動に難有りで、バカとハサミはじゃないけど領主としても取扱いに苦労していることだろう。


 三人とも素晴らしい人格だな、こいつらならぶっ殺しても領主から逆に感謝されるくらいだろう。人格が能力に追い付いてない。基地外によく切れる包丁持たせたら何を料理するかわからんってやつだな。




 

 タマムシとナナフシはこっちがいくら本気ではないといえ余裕で付いてきやがる。初めの全力での逃走がなければ理想の距離がとれずに困ったことになってたかもな。メスゼミは魔法使いらしく身体能力は常人以下って感じだな。今頃は一人で寂しく喚き散らしていることだろう。まあ、あのヒス女の射程距離から離脱するっていう第一目標はクリアかな。


 つか地味にお供のやつらもレベル高いな、距離がなかなか引き離せない。本気ではないとはいえ時速にすれば40kmはくだらん俺の走りに付いてくるとは支援者に換算すれば5級ってところか。本命のタマムシとナナフシと殺りあってるところにちょっかい出されたら致命的だ。先に消しとくかな。剣と槍で間合いが違うのがめんどうだけど上手いことバラけてくれればなんとかなるだろう。


 おおっ、第二目標発見。俺の逃走に焦ってくれたようで位置がまるわかりだ、ありがとうございます。

 ハエは読み通り2匹で俺の左右を必死に併走している。この程度の速度に付いてくるのに気配を殺せないなんて2流ってところか。ラミラやサラサなら気配のケの字も悟らせないのに。

 

 予定通り、ハエから叩き潰すことにしよう。背後を確認するとタマムシ、ナナフシとの距離は多分100mくらい。お供たちはとは250mくらい。メスゼミは視認不可。俺が止まったとして追い付かれるまで9秒弱。十分殺れる。


 減速するとハエ2匹が前方に飛び出す。斥候が敵の正面に飛び出すって、予定通りだけどいくら焦っているとはいえマヌケが過ぎる。


「止まれっ!おとなしっあがっ」


「くそっっぅがっ」


 短剣を振りかざして寝言を叫ぶハエに【静かな花火】でお返事。

 1匹は胸、喉、顔面で炸裂してご臨終。

 もう1匹はなかなかの反応を見せて両腕をクロスさせ急所を庇う。がしかし、両腕を穴だらけにした甲斐もなく防ぎきれず腹に一発喰らいお腹の中身をこぼしてのたうちまわる。無駄に苦しみを伸ばすだけになってしまった…南無。

 この間3秒。タマムシたちとの距離は約60m。我ながら完璧。


 再び全力で距離をとる。


 再びの逃走を開始してから20分弱。ハエ2匹が殺されたこと更に怒りのボルテージを上げたのか、顔に憤怒を浮かべ速度を増して全力追ってくるが…残念、無理ですからオタクらの身体能力と状況把握能力はだいたい理解させてもらいましたから。

 平地ならこれくらいの速度、お供は無理でもタマムシとナナフシなら余裕で追いつけるんだろうけど森の中という悪路では君らには無理だから。

 つか気づいてる?どんどん森の奥に入ってるって。

 方向とか把握してますか?斥候なしでおうちに帰れますか?

 していないよな、できないよな、虫並の知能しか持たないおバカさんだから(笑)。


 頭に血を昇らせるのはいいけど、お仲間の状況わかってる?俺が逃走を始めてかれこれ計30分弱。君らみたいな1流の武芸者ならまだしも、1流にはまだまだ遠いお供たちが付いて来れてないの気づいてる?彼らがどれだけ消耗してるかわかってる?

 お供たちバテバテでバラバラにはぐれてるから。そろそろ夜になるし俺が手を下すまでもなく活発に動きはじめる魔獣たちのご飯になる確率大だから。


 夜の森の中というほとんど経験ないであろう戦闘環境。

 不慣れな状況での全力疾走による疲労。

 怒りと焦りによる視野狭窄。

 仲間との連携の崩壊。


 タマムシ、ナナフシ、メスゼミ、確かにお前たちは強いだろう。

 お前たちの土俵で戦えば、負けてしまうこともあるだろう。

 でも俺はお前たちの土俵で戦わない。俺の土俵で戦う。

 お前らは特定分野の専門家でその道では俺より先にいるだろう。

 1流の戦闘能力を保有し、戦闘のプロフェッショナルといえるだろう。

 でも、お前らは“戦争”の素人だ。


 単純な個人、集団の能力だけでなく、状況、環境、心理、絡め手、全てを十全に使いこなすことこそ“戦争”の基本であり極意。お前らは限定的な側面においてのみ力を発揮することができるだけのただのアマチュア。


 確かにお前らは強いが俺にとってはただの“獲物”だ。本当の戦争ってやつ教えてやろうかね。




◆◆◆◆◆


くそが、あの傭兵どこに行きやがった。

逃げくさりやがって、あのヤロウどんだけ足が速-んだ。

逃がすわけにはいかねぇ、あいつをここで始末しねぇと俺らの首がとぶ。


ガイダイ師匠、バウフェスさん、キンバリー嬢がいればいくら名うての傭兵だろうが確実に殺せる。

おまけに俺らもいる。

苦戦することもありない。

それがどうしてこうなった?

戦うこともなく消耗して、仲間とは逸れ、夜の森を一人で彷徨うことになるなんて。

まともに戦えさえすれば簡単にケリはついたはずなのに。

逃げやがって卑怯者がっ、見つけ出して叩き斬ってやる。

いやいくらあのヤロウの足が速くてもいつまでもスタミナが続くはずがねぇ。きっと今頃はガイダイ師匠に追い付かれてぶった斬られているに違いねぇ。

ざまーみろやくそヤロウが。

はやく追い付いてあのヤロウの死体をおがみたいぜ…

とはいえ、あの傭兵が死んでいるとして、師匠たちはどこだ?どこに向かえばいい?

東か?西か?…どっちが東だ?

俺はどこにいる?町はどっちだ?

森なんざどこを見ても同じ景色で、どっから来たのかさえわからねぇ。

いや、待てよ俺、落ち着け。

足跡だ、そう、足跡を探せば師匠たちに合流できる。

あの巨漢の師匠が盛大に走ったんだ、足跡の一つや二つ簡単に見つかるに違いねぇ。

ははっ冴えてるぜ俺。

……灯りがねぇ、暗くて足元もよく見えねぇ。

火を熾そうにも、火打石を持ってきてねぇし、くそしくじったぜ。

どうする、落ち着いて考えろ。師匠にも落ち着けってよく言われてるじゃねぇか。

師匠もあんまり落ち着いてるように見えねぇけど…とにかく落ち着いて考えろ。


朝を待つか。

うん、これしかねぇ。

灯りさえありゃ足跡が探せる。

足跡さえありゃ師匠たちに合流できる。

ここは体力を回復させて明日に備えるの一番ってもんだ。

そうと決まればゆっくり休むか。




ってよく考えりゃ休めるわきゃねぇ、ここは森の中、魔獣どもの領域じゃねぇか。

危ねぇ、疲れで頭が働いてねぇ。

うっかり寝ちまってたら魔獣どもに食い殺されてたところだ。

しっかりしろや俺。

そういやさっきからゴソゴソと何かが動いてる気配がしやがる。

カークス流【免状】の俺を襲おうとはマヌケなヤツだ。

来るなら来やがれっ叩き斬ってやる。








 コボルトに美味しく頂かれてるお供D発見。いくら目が利かないとはいえ3匹のコボルトに食い殺されるなんて弱すぎだろ。マジで俺が手を下すまでもねーじゃん。今まで見つけたお供4人とも、雑魚魔獣にやられてるなんて拍子抜けもいいとこすぎるんですけど。


 気を取り直してお供Eを探すか。このぶんだともう死んでるだろうけど、万が一にも生かして帰すわけにはいかんし、確認だけでもしておかんとね。


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