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29話 弟子育成2

遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。

「正直驚いています。まさか3か月で全員が課題をクリアできるとは思っていませんでした。特にミネリアさんはこれまであまり体を鍛えることをしていなかったとのことですが、素晴らしい成長です。

 皆さんの才能と努力は賞賛に値します。」


 いや、まじでびっくりだろう。なんでたかだか3か月で60kmを3時間で完走できるようになるんだよ。いくら才能があるっていっても、この世界の人間、ってか魔力すごすぎだろう。地球のアスリートたちがしょっぱく見えるわ。

魔力先生ぱないっす!


「それでは約束のとおり訓練を次の段階に進めます。各自準備を整えてください。

 東門でまっていますので準備の整った人から集合してください。」


「先生、質問をよろしいでしょうか。」


 ぼっちゃんも行儀がよくなったな。


「はい、バルム君どうぞ。」


「先生のおしゃった“準備”と何に対する準備ですか?」


「いい質問です。

 今後“準備”と俺が言った場合は10日程度の野営ができる準備を指します。

 食糧、水、マント、寝具、調理器具、武器、防具、衣類その他諸々を準備してください。各自が自分の判断で必要なものを揃えても、皆さんで相談して分担を決めてもかまいません。必要と思うものを必要なだけ用意してください。

 ああ、ただし今回は馬等の足は用意しないでください。訓練の一環で徒歩で行きますので。


 人によっては同じ言葉でも意味することが違うということは多々あります。わからなければ確認し、認識をすり合わせることを心がけてください。少しの誤解や油断が取り返しのつかないこと引き起こしてしまうこともありますので…

 それでは昼の鐘に合わせて出発しますので急いで準備を整えてください…

 いえ出発は三日後にしましょう。これまで皆さん休むことなく訓練を続けてきたことですし、しっかりと体を休めてください。俺の方も正直この3か月は町にいて鈍ってしまったところもあるので外に出て勘を取り戻したいと思います。皆さんに無様な姿は見せたくありませんからね。

 それでは各自準備を整え三日後東門に朝の二の鐘が鳴る頃集合してください。」


「「「はいっ。」」」


 従順なわんこたちは元気よく返事をして頭を下げてからダッシュで散って行った。うん、なんかまじであいつらがかわいく思えてきた。

 俺の方も“準備”をするか…うっとうしい害虫駆除を。




 サレムの町から一番近くにある森を目指してのんびり歩く。気温は25度くらいで青く澄み渡った空に風が気持ちいい。日本でいえば初夏とかの気候に似てるかな。こんな日はハヅキとピクニックでもしたいところだけど、周りを虫がブンブン飛び回ってるんでそうも言ってられん。速やかに、確実に潰してしまわないとな。


 街道を抜けて森に入ってしばらくすると気配を消すのをやめた虫さんたちが姿を現す。剣を持った虫が4匹に、槍をもったのが3匹。珍しい杖持ちも1匹いる。多分だけどこそこそと人の周りを嗅ぎ回る蠅もどこかに2匹くらい潜んでいるだろう。まあ、こんなもんか。


「下賤な傭兵風情が高貴な血を受け継ぐ貴族の子弟の師匠気取りとは身の程を弁えろ。」


 体格に見合った大剣を突き付けながら頭をピカピカ光らせたタマムシが鳴く。虫だけあり頭はかなり悪そうだが、それに反比例して戦闘力は高いと見える。この集団のボスだろう。結構やばいかもしれん。


「ガイダイ殿の仰るとおり。薄汚い傭兵風情がお館様に近づいて何を企んでいる。最近では若様たちもすっかりたぶらかされてしまったようて嘆かわしいことしかり。ここで貴様を成敗し皆様の目を覚ましてくれようぞ!」


 十字槍を構えたナナフシが吠える。見た目は完全にギャグ要因だけどこいつも結構やばい。間合いが読めん。


「私のかわいいギムリーをよくも傷つけてくれたわね。たかが傭兵風情が許さない、万死に値するわ。

 ギムリー待ってなさい、今からお姉ちゃんが汚らわしい傭兵を刻んであげますからね。」


 杖持ちのメスゼミが目を血走らせながら甲高い声で鳴き散らす。なまじ顔が整ってるだけに迫力が半端ない。おまけに感情に呼応してか体から魔力が立ち上ってんだけど…俺より多くないか?あんま魔力感知得意じゃないおれが感じられるってことはそれだけ濃密で膨大ってことだけど…これでつんでね。


「皆さんどちら様でしょうか、いきなり謂れのない中傷を受けて困惑してるんですけど。」


「とぼけるな傭兵がっ!

 我らはサジエラ家に仕える忠義の士よ。下賤な貴様に惑わされてしまったお館様、若様の目を覚ますため正義の鉄槌を下しに来たのよ。

 大人しくその首差し出せ。」


「俺はあくまで領主様から依頼されてご子息たちに稽古をつけているんですが。こちらから売り込んだ覚えもなければましてやたぶらかすなんてひどい言いがかりです。」


「黙れっ!

 若様たちがすすんで貴様の教えを受けようとしていることが何よりの証拠。

 吾輩が稽古をつけようと声をかけても貴様との稽古があるからと首を横に振る始末。

 素直で聡明な若様にあるまじき言動…

 おまけにお館様もそれをお認めになられて…

 貴様がたぶらかした以外に何があるというのか!」


 えっ、なにこれ、逆恨み?

 もーほんとやめてー。まじでめんどいー。

 雑魚の逆恨みならいいよ。楽勝で返り討ちだから。

 むしろストレス解消とか煽るのもおもしろいからいいけど…

 強い人はやめてめんどいから。ケガしちゃうから。最悪死んじゃうから。


 敵は見える位置に8匹。多分あと2匹くらいそこらに潜んでそうだけど探せないから警戒しつつもとりあえずは無視する…いや無視もまずいか、どうにか目の前に引きずり出さんといかん。

 やばいのはタマムシ、ナナフシ、メスゼミの3匹。一対一なら楽勝とはいかなそうだけど高確率で勝てる。二対一なら多分、ギリで、おそらく、なんとかなる…といいなってところか。三対一なら戦えば敗北は必至で逃げるだけならなんとかできなくもないってところか。

 おまけに剣と槍を持ったモブが5匹。しかも単なる雑魚じゃない。ゲームでいうところの強雑魚が5匹。

 かなり厳しい。最近だとボストロル以上に厳しい。

 訓練中に殺気飛ばしてくるバカをサクッとぶち殺そうと思ったらこっちが殺されそうって笑えんわ。相手を舐めすぎた俺が悪いか…最近油断が目立つな俺…

 今更後悔してもしょーがない、気持ちを切り替えるか。


「はー、ようは逆恨みですか?

 自分の立場を脅かすポッと出の傭兵を徒党を組んで人目のないところで始末する…

 流石は品位ある貴族の家に仕える方達は違いますね。

 やることが短絡的で直情的で実にあさましい。」

 

 煽る。できるだけヤツラの頭を沸騰させてやる。


「領主様はこのことをご存じで?

 ご存じなわけないですよね隠れてこそこそやっているんですから。

 俺が一人で町から出るのを見計らって人目を憚って尾けてきたんですから。」


 うおっすっげ、タマムシ。某特戦隊隊長ばりに額に血管浮かべてやがる。リアルで初めて見たわ。つーか色も真っ赤に変えちゃって。


「そちらの女性はギムリー?君のお身内ですか。

 ああ、あの使えないプライドばかりの甘ちゃんの彼ですか…身内の恥を俺のせいにされても困るんですが。むしろダメと、使えないとしっかり指摘してげあげたことを感謝して欲しいくらいなんですけど。」


 目を血走らせて、髪を振り乱してワーキャー喚くメスゼミに恐怖を覚える。

 無理絶対に抱けないわこの女。


「皆さんの行いは領主様に対する反逆行為ですよ。

 知らないでしょうが俺と領主様の間では【血縛契約】が取り交わされています。

 わかりますよね?皆さんは自らの行いで領主様の首を絞めているんですよ…」


 まあ嘘だけど。部下からの邪魔に対する契約事項なんてないけど…

 拡大解釈すれば条件の④と⑤が該当するっちゃぁ該当するけど領主の与り知らぬところであるなら領主は被害を受けない。

 でも契約の内容、そもそも【血縛契約】があったことすら知らなかったおバカな虫さんたちは怒りから一転、顔面を蒼白にさせて口をパクパクさせている。

 もし、この事実が明るみに出れば領主に対する反逆罪の罪に問われることは必至、本人は元より一族郎党皆殺しになるんでそんな顔もするわな。


「俺はこの件を領主様に報告させてもらいますので失礼します。

 それでは。」


 後ろを振り返り全力で離脱する。虫たちが混乱している内に少しでも距離を稼ぎたい。


「に逃がすなっ!なんとしても殺せ。」


 怒鳴るタマムシを尻目にトンズラを決める。

 気分は某大泥棒。


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