28話 弟子育成1
前半蛇足かもしれません。
「最近弟子をとったんですって?
らしくないことするじゃない?」
事後の一服を楽しむ俺にラミラが含みを持たせた声で問いかけてくる。
「よく知ってるな。一応ギルドの方にも口止めしてあるんだけど。」
「そこはまあ専門家だし。
でも本当にあなたらしくないじゃない。自分の手の内をさらすなんて。
何か弱みでも握られてるの?」
「そういうわけじゃないんだけどな。
強いて言うなら…安穏とした今の暮らしを守るため、かな。」
「なによそれ。
まあ、あなたが弟子をとるのは勝手だけど、それであたしを蔑ろにされるのは悲しいわ。町にいるのに全然会いに来てくれないし…貴族のお嬢さんたちはさぞかわいいんでしょうね。」
「…めんどくさいこと言うなよ。」
ギヌロンって聞こえてきそうなラミラの視線が怖い。部屋は暗いはずなのに明らかに睨まれているってわかるってどういうことよ。なんか目も光ってるし暗殺者の特殊技能か…つかこれ泣いてね…
「お、おいどうしたんだよ。なんでいきなり泣いてんだよ。」
「うぅっ、ぐずっ。
だってリョー全然会いに来てくれないし…ハヅキさんのとこには行ってるのにあたしのとこには来てくれないし…ぐす。
貴族のお嬢さんたちはかわいいって、ひっく、噂を聞いたし...あたし飽きられたんだって...
ねえさんには3回も会いに行ってるのにあたしのとこには、うう、一回も来てくれないし。
あたしはリョーが好きなのに、ひっく、リョウーはあたしのこと好き、ぐすっじゃないんでしょ...」
はい来ましたスーパーめんどくさいタイムです。
ラミラさん情緒不安定なお年頃ですね。まそこもかわいいけど。
「いやそんなことはないって。俺はラミラのこと好きだよ。むしろ大好きだよ。」
タバコをもみ消して、ベッド上に胡坐をかいてラミラを見つめる。彼女は枕を顔に押し当ててうつ伏せになったまま、こっちを見ようともしない。
「...うそだ。それならどうして会いに来てくれないの。好きなら会いたいでしょ。」
「お前けっこうめんどうな仕事抱えてたんだろ?
サラサから聞いてたし、遠慮してたんだけど。」
「それでもあたしはリョーに会いたかったの。なんでわかってくれないの!」
「しんどい時、俺は人に会いたくないからかな…それが恋人でも。
自分がされて嫌なことは他人にするなって親に言われて育ったしな。」
「リョー他人が嫌がること得意じゃない、よくやってるじゃない。
奇襲をかけたり、拷問したり…うそばかっりついて。
あたしが嫌いなら嫌いって言えばいいじゃない。」
「つまらん揚げ足をとるな。
自分の大切な相手にはしないって意味だ。
お前なら俺の性格知ってるだろう?
もし本当にお前のことが好きでもないなら俺は会いに来ない。もっと言えば今みたいにめんどくさいこと言われたら無視して帰るか、最悪ぶっ殺してる。それでも怒らず相手してるのはお前が大切で失いたくないからだ。恥ずかしいことを言わせるなバカ。」
グズるラミラを抱きしめて口を閉じさせる。それでも暴れて泣き言をわめこうとするので舌をからませてあやしてやると次第に力が抜けていく。
サクランボで練習しといてよかった。
グズりから甘え、甘えから欲情にスイッチが切り替わったのか足をからませて全身で抱き着いてくる。さっきしたばっかじゃん。めっちゃ元気じゃん。まあ俺も全然できるけど、むしろやりたいけど…
「それでどうなの貴族のお子様たちは?」
一発やってだいぶすっきりしてくれたみたいで何より。
やっぱり泣顔より笑顔の方が似合ってるよ、お前には。
「うーん、たいしことはさせてねーよ。
今は毎日フル装備で朝から晩まで走らせてる。」
「走らせてるって、それだけ?」
「ああ、それだけ。
だってあいつら体力なさすぎるんよ。
体力つけさせようと思ったら走らすのが一番だろう?」
「それはそうだけど…よくそんな指示に従ってるわね。」
「問題ねーよ、初めの10日で上下関係っていうか立場ってやつをしっかり弁えさせたから。」
思い返すと指導開始から10日ほど、毎日あいつらを殴ってたな。日本でやってたら武術の指導とはいえ、間違いなく訴えられてるわ。異世界万歳!
「貴族の子弟相手によくそんな無茶やるわね。」
「親の許可はとってるから問題ないだろう。
あいつらも初めはかなり生意気な勘違いちゃんたちだったけど、俺の愛の溢れる指導で今では従順なわんこになってるから。
まあそれでも何人かは耐えられないって脱落してるけどな。」
「あなたの“指導”って…怖いわね。脱落って壊したりしてないの?」
「そこは加減してる。少なくとも肉体的には誰も壊しちゃいない。
得物使ったら大怪我させちゃいそうで素手で相手してるんだけど、かなり加減上手くなったからね。なんつーのこう繊細な動き、力加減っていうのか俺も上達したわ。今では大怪我させないギリギリで殴れるようになったし、自分の体の動かし方の理解が深まったって感じかな。」
笑顔の俺にラミラはため息を吐きつつ
「あなたの実験台になった子供たちに同情するわ。
それで見込みはありそうなの?」
「素材自体はいいと思う。
あれなら領主の求めにもなんとか及第点は出せそうってところかな。
これ以上はいくらお前とはいえ仕事だし守秘義務もあるから教えらんないけど。」
「別に仕事目的で探りを入れてるわけじゃないから。単純にあなたが人に教えているってことに興味があるだけ。
しばらく町で指導を続けるんでしょう?それならこれからはもう少し会いに来てくれると嬉しいんだけど…」
りょーかいです。
◆◆◆◆◆
あと一周。
あと一周で終わる。
汗が目に入って痛いし、足のマメも潰れて痛いし、息が上がりすぎて胸の中が痛いし、昨日先生に殴られた脇腹も痛いし、全身筋肉痛で痛いし…とにかく痛いし疲れた。
でもあと一周。
バルムとニッカはもう終わってるみたいだけど、ミネリアとバナッスはまだまだかかりそうね。
ご愁傷さま。
バルムは流石ね。伊達にカークス流の【免状】もらってないわ。よくこれだけ走った後先生に稽古つけてもらう気になるわね、神経を疑うわ。マゾじゃないかしら。先生に毎日ズタボロにされているけどそれでも着実に日々進歩している。体力、技術も成長している。
ミネリアも根性あるわ。魔法使いなのにこの訓練についてきてるって…まあ先生に言わせれば支援者なら誰でもできて当たり前ってことだけど、他所では聞いたことないしこんな訓練魔法使いにやらせるなんて。体力も一番なくて、白兵戦の技術もないのに必死で食らいついてきてる。あの根性はやばい。
ニッカはまあなんというかニッカね。あんなにおっかない先生によくなついて天然全開だし。訓練も楽しそうにやってるし。何気に先生からも一番褒められているし。わたしもあれくらいバカに生まれればよかったかしら。
バナッスもクソ真面目によく頑張ってる。あんなに重たい槍と盾を背負って走るなんて頭がおかしいとしか思えないけど、あいつらしいといえばあいつらしい。先生のフル装備って教えをしっかりと守ってる。派手さはないけどあいつも確実に強くなっている。
ってわたしもよくやってるわ。こんなにつらいのに。
ケミン、バンダ、ギムリーみたいになんで辞めなかったんだろう?
体中痣だらけになるし、筋肉はつくし、手も足も硬くなるし。
かわいい女の子からどんどん遠ざかっているのに。
先生からは痛めつけられてバカにされるし。
でもここまでやってきた。
少しずつだけど、本当に少しずつだけど強くなっているのがわかる。
家にいたってどこかのバカ息子と結婚させられるか、最悪ハゲ親爺の愛人にさせられるだけだし。
それなら強くなって、支援者になって、お金を稼いで、自分のしたいことをしたい。
死ぬのも、犯されるのもイヤだけど…
訓練がつらいのもイヤだけど、自由な人生を手に入れるためには仕方ないか。
あと半周。
がんばろう。
ブクマ100件、ユニーク10000回を突破しました。
目標の一つにしていたので嬉しいです。
これからも遅筆ですががんばります。




