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1話 傭兵帰宅する

「おかえりないリョウさん。ご無事でなによりです。」


俺の体を見回しながら、宿屋「静かな夜亭」の女将アイリ=クランスが微笑みかけてくれる。


「お部屋の方はそのままになっております。お食事もお風呂も用意ができてますがどうされます?」


「先に風呂にはいらせてもらうよ。汗まみれで気持ち悪い。腹もかなり減ってるから、風呂からあがったらすぐ食えるようにしといてくれ。」


「わかりました。それでは鍵をどうぞ。ミリーにも声をかけてあげてください。あの子も心配していましたので。3階で掃除をしていると思います。」


「りょーかい。」


鍵を受け取って3階の自室に向かう。掃除の行き届いた廊下は歩いていても気持ちがいい。風呂もついてるし、一泊銅貨15枚払うだけの価値はあるな。ここを定宿にして3年ちょっと、目をつむっても部屋まで行ける…別につむらないけど。


「リョーさんおかえりなさい。」


「うおっと。年頃の娘さんがはしたないぞミリー。それに危ないからいきなりとびついてくるな。汗臭いし離れな」


「えへへー、傭兵さんが隙だらけじゃだめなんですよ。それに〝お兄ちゃん“に抱きついてるんだから別にはしたなくなんてないですよ」


 全くかわいいことを言ってくれる。世の妹スキーが聞いたら血を吐いて、涙を流して喜ぶぞ。上目遣いの仕方なんてどこぞの専門機関で訓練を積んだのではないかという程の破壊力を秘めている…ミリー恐ろしい子!この子に将来振り回されるであろう哀れな男達のことを思うと戦慄を禁じ得ない。


「また夜にでもゆっくり話をしよう。本当に疲れてるんだ。とりあえずゆっくりしたい。」


「はーい。それではごゆっくり」


 ミリーと別れて部屋に入ると、旅装を解き、装備の手入れをする。愛用の鉈はかなり血をすったのでしっかりメンテを行わないとすぐにダメになってしまう。といっても専門的な技術がないので汚れを拭い油を塗るくらいしかできないが。明日にでもゴンズの親爺のところに持って行こう。また、荒っぽい使い方をしてーと小言を言われるのが面倒臭いが、腕は確かだし、俺のことを思っての言葉だし甘んじて受け入れよう。




 風呂には入って飯を食い人心地ついたところで、ゆっくり蒸留酒を飲んでいるとミリーがニコニコしながらやってきた。


「今回のお仕事はどうだったんですか?しっかり働いて、しっかり稼げたんですか?」


「おう。なかなか満足のいく結果だったよ。

 バズの町へ行く隊商の護衛だったんだけど、往きはコボルトとかゴブリンの雑魚に襲われるくらいで平和だったんだが、返りに山賊に襲われてな本当にラッキーだったよ。

 『山嵐』とかいう山賊でそこそこ賞金首もいて、お宝も抱え込んでて丸儲けって感じだったな。しかも…しかもなんだけど昔俺を襲って奴隷にしてくれた奴らも何人かまじっててさ〝お礼“することができたんだよ。いや傑作だったね生爪剥がされるだけどギャーギャー泣き喚いてさ。自分たちはいままでもっと酷いこと人にやってるっていうのに…

 指を全部引きちぎって、刳り貫いたテメェの目ん玉食わせたら殺してくれーって言いながらゲロゲロ吐くし。本当はもうちょっと〝お礼”したかったんだけど隊商の人達が時間がないって言うから、捕まってた女の子達とノコ挽きで達磨にしてから首を落としてやったんだけど意味ある言葉が喋れなくなっててなんだかーって感じ。殺るからには殺られる覚悟持たないとだめだよね本当。」


「やりましたね!リョーさんも捕まってた女の人達もしっかりお返しができて」


 目をキラキラ輝かせながらミリーがねぎらってくれる。ええ子や。


 それにしても後ろの席で飯を食っている奴らは大丈夫だろうか。美味しく、楽しく食事ができるこの食堂で青い顔をしてゲーゲー言いながら吐いている。アイリとミリーが作る料理で食中毒など起こるはずがない、病気か?ツワリか?…とても心配だ。頼むから俺と宿屋の母娘には感染してくれるなよ。力を込めて見つめると、ひっと呻き声をあげて席を立った。やはり余程体調が悪いらしい。


「ミリーあんまり長話をしてリョウさんを困らせてはダメですよ。お仕事から帰ってきたばかりでお疲れなんですから。まだお仕事が残っているでしょう。」


「ちぇー…ひっ。わ、わかったよお母さん。それじゃリョ-7さんおやすみなさい。」


「もー困った娘ですいません。お酒のお替りはいかがですか?」


「いややめとくよ。眠くなってきた。そろそろ部屋に戻る。それと…シッ」


ボウッ


 爆炎を使い先ほどの客が吐いたゲロを燃やし尽くす。伝染病だったら危険だ。

ゲロだけでなくテーブルまで燃やしてしまったので、弁償金として銀貨を1枚置き席を立つ。


「ふふっ。優しい方ですね本当に。でも多分大丈夫だと思いますよ。それにこんなにたくさんいただけません。ウチで使っている机なんて銅貨10枚もしませんよ」


 アイリは銀貨を俺に返しながら、


「今晩おうかがいしますね。2週間も独りで寂しかったんですからね。」


 上目で遣い囁くのだった。




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