25話 領主の依頼
「俺には5人の子供がいる。
3人は既に成人して領地経営や騎士団の役職に就いているが、2人はまだ未成年でこの町で暮らしている。その2人が来年に成人するのだが騎士団に入るのではなく支援者になりたいと言い出してな。どうやらお前に憧れているようなのだ。若くして戦争で活躍し名を上げ、権力におもねらず自由を貴ぶ、お前にな。
二人とも武の才があり、俺の子供ということで周りからもてはやされたことで調子に乗っていてな…」
これまで威厳と自信がにじみ出ていた領主の表情に、疲れた苦笑がうかぶ。
できる貴族様も人の親というわけか。
「俺としては領地を継がすわけでもないので自由にさせてやりたいところだが、このまま許してしまえばまず間違いなく早晩命を落とすことになると思っている。
しかし俺が強く言ったところで2人は耳を貸すまい。
そこでお前に2人が支援者となっても簡単に命を落とすことのないように指導をしてほしいのだ。お前のいうことならば2人も聞きいれるだろう。」
再度、頭を下げてくる領主。
貴族に頭を下げさせるのはなかなかに気分がいいもんだ...がしかしここは
「お断りします。」
「即答か…理由を聞こう。」
驚きと若干の焦りをうかべ問いかける領主に
「大きく三つあります。
一つ目、過分な評価を頂いているようですが俺はそんなに優秀ではありません。今のギルドからの評価も正直、重荷に感じています。
二つ目は俺に他者の指導経験がないことです。自分の技術や経験を他者にどう伝えるかなんて考えたこともありません。それをいきなり領主様のお子さんにやれというのは無茶なことでしょう。
そして最後ですが、『命を落とさないようにしろ』という依頼内容の曖昧さです。命のやりとりが日常のこの商売でそんな依頼は受けられません。どんな強者でもあっさりと死んでしまうのがこの商売、領主様も重々ご理解のことと思いますが?」
まあぶっちゃくめんどうくさい。つーかなんで自分の技術を人に教えなならんのだ。あほかあんたは。
さてどう切り返す領主様?
「ふむ。やはりキレるな、ますますお前にあの子たちのことを頼みたくなった。」
はっ?何寝言言ってんだダボハゼ。丁寧に理由つけて論破してやったでしょう。そこは逆切れして生意気な口をきくな出て行け!とか怒鳴るところだろう。
「俺とのコネができるこの依頼をあっさり蹴るとはな。
自己の能力を客観的に分析し、依頼の矛盾に瞬時に気づける冷静さ、やはりこの依頼是非ともお前に受けてもらわねばならんな。」
「お言葉ですが「『上位者は下位者の成長のため援けを与えることが望まれる』、お前ならわかるはずだ。」
被せてくるんじゃねぇよおっさん!行儀の悪いヤツだな。
「…ええ、支援者の心得でしたか。
ただしそれ「ただしそれは“努力義務”であり“義務”ではない、か?」
「……」
また被せてきやがってうっとうしいおっさんが。
あとそのにやついたツラを何とかしろ!
さっきまでの表情は演技か!
「しかし2級以上の支援者は義務として後進の指導をしなければならない。
継続して優れた人材を輩出していくための措置として支援ギルド規約に明記されているはずだが。」
「あくまでそれはギルド加入者に対してで「それならギルドに加入させればいいわけだな。」
しまった、乗せられた。いやまだ
「それでしたらギルド加入時の初心者向けの講習でよろしいですね。そのレベルなら俺でもつとまりそうです。」
「いや、それでは駄目だ。確かに年に数回の簡単な講習だけで茶を濁す者もいると聞くが、お前には子供たちの“師”になってもらいたい。」
「ギルド、いいえ国としては将来に向けた人材の輩出も必要でしょうが、それ以上に今居る、使える支援者に仕事をさせる方が重要ではないんですか?」
「…領主としての立場ならそうだ。しかし父親としては子供たちに必要なものを与えてやりたい。」
おっさんぶっちゃけやがった。ここまで言うからには退く気はないか…
「報酬は十分に用意する。お前の言い値を出そう。
これは一人の親としての依頼だが、お前に受けてもらうためなら領主としての力も使うつもりだ。」
「…わかりました。受けましょう。
これ以上ごねても余計めんどうなことになりそうですし。
依頼を受ける以上は全力であたらせもらいますがこちらも譲れないところはあります。
条件についてつめましょうか。」
受けたくないけどこのままじゃ埒があかん。
断った場合、最悪領主が敵になりこの町で暮らせなくなる。俺一人ならどうってことないけどハヅキのことも考えると依頼を受けて領主と友好的な関係を築いといた方が無難だ。
コネも手に入ることだし、せいぜい有効活用させてもらおう。
・支援者養成訓練契約条件
依頼者ラーゲン=フォ=サジエラを甲
執行者リョウ=サクラを乙
訓練を受ける子供を丙とする
①甲は報酬として丙一人当たりにつき金貨5枚/月を乙に支払うものとする(期間は12カ月)
②丙が訓練を受けることを拒否した場合それ限りで打ち切ることとする
ただし乙は丙に対してわざと悪辣な指導を行わないこと
③訓練中に丙が負傷、死亡しても乙は責任を問われないこととする
④訓練の内容について甲は乙に一切異論を唱えないこととする
ただし訓練の内容について乙は甲に事前説明の義務がある
⑤乙はサジエラ領内にいる限りにおいて甲によりギルドでの後進育成義務が今後一切免除されることとする
加えて他の貴族から乙に対して何らかの接触があり乙の意志に反する場合、甲は乙を援けるべく全力を尽くすこととする
⑥上述5項を遵守すべく甲と乙は【血縛契約』を結ぶこととする
「…」
「どうした、まだ何か不備があるか?」
「いえこれでよろしいです。」
良いも悪いもない、俺に有利すぎる。それだけ俺のことを高く買っているってことか。ここまで俺に有利だと裏を疑うというかどこかに穴があると思ってしまう。しかも領主としての力を使うって圧力をかけるってことじゃなくて俺を守るってことになってるし…
まあ、ある意味サジエラ家の専属みたいになっちまってるけど、これくらいなら許容範囲かな。
「それでは【血縛契約】を執り行う。」
【血縛契約】魔法が込められた契約書に、ナイフで切った親指を押し当てる。俺と領主の血を吸った契約書は元の白から血と同じ赤色に変色する。呆気ないがこれで契約完了。契約を破れば身体中の血が腐って死に至る、割とデンジャーな契約。
「無事契約完了だ。俺の覚悟もわかってくれたと思う。
これからよろしく頼む。」
「こちらこそよろしくお願いします。」




