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24話 領主

 やられた。完全にしてやられた。

 あの女、最後の最後にとんでもない爆弾をぶっこみやがって。

 断るタイミングを完全に潰して、確定事項として領主との会談を告げてくるなんて、完敗としかいいようがない。あれで異を唱えようものならこっちが悪者だ。向こうの目的が俺を見定めることだけと決めつけていた俺の落ちどだ。

 まあ、領主と会わせるってことは少なくとも俺を排除すべき危険人物ではないと評価したってことだろうから、当面ギルドから命を狙われるなんてことはなさそうだから一先ず当面の安全は確保したんだろうけど…

 領主と会うなんて厄介ごとの匂いしかしない。とりあえず領主とその周辺の情報収集しとかないとな…またいらん出費がかさむ。

 しかも2級への昇級というおまけつき。国やギルドから受けられる恩恵は増すけどその分責任が増える。ギルドからの要請ノルマとか後進の育成義務とかどう考えてもデメリットの方がでかい。最悪本当に面倒だったらこの国からおさらばも考えとくか…ハヅキはなんて言うかな。





 5日後ギルド経由で領主からの呼び出しを受ける。明後日の昼の鐘に領主の城に顔を出せとのことだ。

 昼飯を一緒に食うことになるかもしれん。この国のテーブルマナーとかよく知らんけど…まあなるようになるか。

 この5日間やれることはやった。

 【這寄る蛇】に高い金を払った甲斐はあった。領主の経歴、為人や周辺人物の情報など最低限の予備知識は仕入れることができた。情報ってのはあって損することはないはずだし金貨5枚も無駄になるということはないだろう。

 会談用に正装も一式誂えたけど着心地はあんまりよくない。これで金貨1枚はぼったくりもいいとこだと思う。紺色のジャケットっぽい上着は重いし硬いし通気性が悪いしであまり袖を通したいものじゃない。グレーのパンツも生地の材質が肌に合わないのかすごくかゆいし。靴も硬くて親指が痛い。

 まじでこの国の正装クソ、あの服屋もクソ、今日の会談もクソ、ああイライラする。


 わざわざ宿まで迎えに来た馬車に揺られ領主の城に向かう。馬車に乗る俺にミリーが憧れの眼差しを向けてきてかなり恥ずかしかった。

 馬車は2頭立てのシンプルなデザインだが、造りがかなりしっかりしている。馬車を牽く馬も体格に優れた軍馬を使っているし。

 馬車自体、簡単な魔法なら多分だけど2,3発なら耐えられると思う。おまけにスプリングでもついているのか揺れも少ない。流石は領主の持ち物といったところか。


「サクラ様、到着しました。」


 眠気が襲ってきたところで卸者に到着を告げられる。遠目には何度も見ていたけど改めて間近で見ると城、超デカい。セルゼルス帝国、ジャージー王国と国境を接しサンシスコ王国西部国防の要なだけのことはある。

 5メートルを超す城壁の周りには幅10メートル程の堀があり水棲の魔獣が放し飼いにされている。城壁にはいくつもの銃眼が設置され侵入者を警戒している。


 卸者に促されるまま城の中を進む。 

 途中門番的な警備の兵士がいるところを通る時も特にボディーチェックを受けることもなくあっさり通される。テンプレ的にいちゃもんの一つでもつけられるかと警戒していたけど肩すかしを食らった感じだ。ただすんなり通してくれたけど警備の兵士たちはそこそこ腕が立ちそうだった。単純な戦闘力でいえば5級の支援者といったところか、まだ若そうなのに大したもんだ。

 領主であるサジエラ辺境伯ラーゲンは王国軍で第二軍の軍団長を務めた武闘派だったということで自領の兵についてもしっかりと訓練をしているんだろう。

 城の内部も装飾品の類はほとんどなく質実剛健を地でいく領主の性格をあらわしているように思える。


 他とは色の違う扉の前で卸者がノックをすると、渋めのバリトンで「入れ」と返事があり、入室を促される。


「っ!」


 死角から振り下ろされる剣を躱す。気配の消し方といい剣速といいそれなりの使い手だ。凶行の主は俺に躱されたことに微塵も焦っていないみたいで今度は体ごと突きを放ってきた。うざい。避けずに自分から突っ込む。武器の類は持ってきていないがこれくらいの技量なら素手でもイケる。体を捻って突きを躱し膝蹴りを水月に叩き込む。カハッと息を吐き出して崩れ落ちるマヌケ。ざまー。


「これはなんの茶番ですか?」


「噂通りの男だな、リョウ=サクラ。

 精鋭騎士の不意打ちを素手であっさりと退けるとは。しかもあの一瞬で状況を見極め殺してしまうのではなく無力化するとは恐れ入る。

 試すようなことをしてすまなかった。どうしてもこの目でお前の実力を見極めたかったのでな。」


 椅子から立ち上がり深々と頭を下げる男、貴族にしては珍しく礼儀ってものを多少は弁えているようだ。まあいきなり襲い掛かられたことを許しはしないけど。

 傍に控えていた護衛に伸びているマヌケの手当を命じるとこちらに歩み寄ってくる。均整のとれた体格に、オールバックにしたゆたかな金髪、左頬に刀傷、実年齢は43歳とのことだが、整った顔立ちと全身から溢れる生気で10歳は若く見える。頬の傷も歴戦の戦士って感じだ。物腰、雰囲気からさっき襲ってきたマヌケより確実に強いことがわかる。支援者に換算すれば3級くらいか。

 

「重ねて謝罪をさせてもらう。

 すまなかった。

 怒りはもっともだと思うがおさめてくれ。」


「いえ、ただ次に同様のことがあった場合はどうなっても責任は負いかねます。

 普段命のやりとりをすることが多いものでどうしても加減がききません。

 ましていきなり襲い掛かられたとあれば…」


「わかった。今後はこのようなことがないと誓おう。


 さて、それでは今日ここにお前を呼んだ件についてだが…時間もいいことだ、食事でもしながら話そう。ついてきてくれ。」




 領主自らの案内で連れられた食堂には20人は座れそうな楕円形のテーブルが置かれ、その上には湯気を立てる出来立ての料理が並べられている。

 テーブルに近づくとメイドに椅子をひかれて着席する。


「飲めるのだろう?」


 対面の領主は笑顔で酒を勧めてくる。

 昼間っから酒かよ…まあ大好きですけど。

 メイドから注がれるワインは甘く芳醇な香りを漂わせて飲む前から美味いことが分かる。


「では、今日の出逢いに乾杯。」「乾杯」」


 美味い。甘さの中にコクと酸味が程よくまじり後味もさっぱりしている。思わず飲み干すと、すぐさまメイドが酌をしてくれる。

 領主は満足そうに俺を眺めている。


「折角の料理だ、冷めてしまうのはもったいない、美味いうちに食ってしまおう。

 ああ、礼儀などは気にしなくてもいい、堅苦しいのは好かん。楽にやってくれ。」


 毒とか、俺を害そうとか、そういう気はなさそうだ。まあお膳立てしてくれたことだしお言葉に甘えようか。

 やっぱり初めはサラダから。ベジタブルファーストは基本だ。レタス的な何かとブロッコリー的な何かをフォークで突き刺し一口。シャキシャキとした歯ごたえと生野菜特有の苦みが胃袋を刺激する。食材の味を活かすためかドレッシングはほのかに酸味を効かせたオイルベースで梅肉のような酸味と塩気が食欲を掻き立てる。美味い。これならボール2,3杯は軽くいける。俺が気にいったことに気づいたのかメイドが横からサラダをよそってくれる。しかもこちらもお試しをと上からチーズを振りかけて。早速口に運ぶと、野菜の爽やかさの中にチーズの旨みが加わり更に良し。姉ちゃんなかなかいい仕事するじゃないか。

 野菜ばっかりじゃもったいないんでお次はステーキを。ミディアムに焼き上げられた肉は口に入れると柔らかいんだけど噛みごたえあるという絶妙な厚さと焼き加減で実に俺好み。余分なソースをかけていない点もグッドだ。これを作った料理人とは仲良くなれそうだ。多分だけど牛型の魔獣ヒダだと思う。

 肉の次は炭水化物、白米が欲しいけどあいにくサジエラ領では稲作をしていない。我慢してパンを齧る。可もなく不可もなく。まあ所詮パンだ。

 さてお次は……




「満足してもらえたかな?」


「ええ大変美味しかったです。

 料理も酒も大満足です。」


「それはよかった。

 それで今日呼んだ件についてなのだが、お前に受けて欲しい依頼がある。


 うちの子供たちを鍛えてやって欲しい。」


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