22話 ギルドマスター
「リョウさん本当に人間カ?これ人食い蝶の鱗粉ヨ、なんで動けるネ?
人食い蝶は鱗粉で動けなくした獲物に卵を産み付けて、幼虫のエサにするヨ。鱗粉吸い込んだら魔獣でも動けない、孵化した幼虫に生きたまま食われるネ。
なのにリョウさん動いてる、いったいどういうことカ?」
「これが人食い蝶の毒ですか、どおりで効くはずだ…
あー、老師ですから言いますけど、内緒でお願いしますね?」
あまり人に言うことじゃないけど、老師ならいいだろう。
「もちろん患者さんの秘密、他言無用ネ。」
真摯な瞳は、確約をうったえている。
「実は俺、昔奴隷だったんですよ。といってもこの国でじゃないですけど。
盗賊にとっ捕まって売り払われたのが【遊技場】ってところだったんですけど、そこで変態どもの相手をさせられたり、同じ奴隷同士で殺し合いをさせられたりと1年ちょっと過ごしました。
まあ生きてるのが不思議なくらいの地獄でしたね。全身にある傷痕も半分くらいはその時のモノです。」
今思い返しても我ながらよくぞ生きていたものだ。まあ、ある意味死んだとも、生まれたとも言えるけど...
あそこで、平和な日本で生きていた”佐久良”は死んで、この世界で”常識”を身に着けた”リョウ=サクラ”が生まれた。
老師は無言で続きを促す。あるいはどこかで俺の過去を予想していたのかもしれない。
「そこで一人の貴族に気に入られて買い取られました。
ここが本当にひどかった。
【遊技場】での暮らしがまだ楽だったと感じられるほどでした。
俺を買った貴族ってのがさる侯爵家のご令嬢だったんですけどこいつが本当に最悪で、生まれながらのサディストとはこういう人間のことだとわからせくれました。陳腐な言葉ですけど、人の皮を被った悪魔ってこういうことなんだって…
あの女は自分の気に入ったモノが傷つき壊れていく様子を見るのが何より好きで、当時お気に入りだった俺はそれこそ毎日のように嬲られました。食事にはたいがい毒が入っていて痛かったり、苦しかったりと散々でしたけど食わなきゃ死んでしまうわけで、歯を食いしばりながら食ってました。あの女はそんな俺をいやしくてかいわいそうと嗤ってましたけど。」
思い出すだけでハラワタが煮えくり返る。あの”くそ女”と弱かった自分に。
知らずに握りしめていた拳を老師が優しく包んでくれる。子供の癇癪を起して暴れる俺を宥めてくれた死んだじいちゃんみたいに。
「とにかくあの女と【遊技場】と連中、俺を奴隷に落とした盗賊どもに一矢報いるまでは、と必死に生き抜きました。どんない辛くて、惨めで情けなくても必ず殺してやるという思いだけで生き延びました...
おかげで今回みたいに毒やら痛みには結構な耐性ができましたけどね。」
「……
辛いこと訊いてしまったネ…」
老師の目には同情の色はない。それをされることが一番辛いと理解してくれているからだろう。
「気にしないでください、俺も老師には聞いて欲しかったですから。
老師のおかげでまた一つ強くなることができましたし、いつも支えてもらっています。
本当は誰にも言わず一人で決着をつけようと思ってたんですけど、俺も弱いみたいで誰かに励ましてもらったり、人に話すことで自分自身に気合を入れなおしているところがありますから…
暗い話しはこの辺にして、それでコクオウの傷と毒の方はどうですか?正直少しでも早く治したいんですけど。」
「しばらくは安静ネ。この毒そのもには人を死なせるような効力はないケド、毒を打ち消そうとリョウさんの体が抵抗しているから体力の消耗が激しいネ。動けばそれだけ体力を奪われて毒からの回復にも時間がかかるヨ。
一応毒消しもあるケド…リョウさんでも三日はかかるとみた方がいいネ。
ああ、コクオウは大丈夫ヨ。臓腑までは傷ついてないし、腱や筋も痛めてないネ。あのこの体力ならすぐにでも全快するヨ。」
今頃、曾孫ちゃんたちがせっせと世話を焼いてくれてることだろう。あの子たち基本動物大好きだから。コクオウもよく懐いているし、大好きなリンゴをもりもり食べている様子が目に浮かぶ。
「ああそれはよかったです。今回もコクオウのおかげで命拾いしましたし、あいつに死なれちゃ立ち直れませんよ俺。
それと五日後にめんどいんですけど、なんかギルドマスターに会わなけりゃいけなくなりまして…できれば体調を万全にしときたかったんですよ、何があってもいいように。」
「そうカ…ギルドマスターと会うネ…」
「老師はギルドマスターをご存じなんですか?人前にはめったに顔を出さないって噂ですけど。」
「うーん、昔の知り合いネ…悪い人で怖い人だけど信用はできるヨ…」
やめてください老師、なんで暑くもないのにいきなり汗かいてるんですか?さっきまで静かで穏やかな表情を浮かべていたのに目元がピクピク痙攣してるんですけど、どういうことですか?
って足震えてません?
「なんですかその人物像は?今の言葉と老師の態度でさらに会うのがイヤになったんですけど…」
「リョウさんなら大丈夫ヨ。あなたに敵対することはないと思うネ。会えばわかるヨ。」
なんじゃそら、マジで会うのめんどいんですけど。
ブッチしたらしたで余計めんどそうだしとりあえず会うか。
支援ギルド、日本でいうところのハローワーク的存在。まあ斡旋する仕事は基本的に荒事中心なんだけど。
こっちの世界、というよりこのサンシスコ王国では国民の生活をより豊かにすることを目標に設立された国の一機関で、運営には国と外部から招かれた一部の有識者が携わっているとのことだ。
創設は150年ほどとそれなりに長く、その歴史の中で幾人かの英雄を輩出していて、その中の一部は貴族に叙されている。
マンガやゲームみたいな国を跨いだ独立組織というものではなくあくまでサンシスコ王国の管理下の組織としてその国内でのみその機能と権威を有している。まあ普通に考えりゃ戦闘能力を有する独立組織なんて国が認めるわけがない、ましてや自国内においてその活動を許可するなんて安全保障の観点からありえるはずがない。俺の敬愛する某13のスナイパーが現実に存在すれば即座に全世界から命を狙われると作者の先生が言っていたが、国家に与しない武力保有組織も似たような扱いになるのは当然のことだろう。ファンタジーはやっぱりファンタジーでしかないってことだな。
迎えた当日、受付に用件を告げるとスタッフオンリーの扉の内側に案内される。案内人は七三マスターライナス。
ギルドの施設内には初めて入ったけどかなりきれいだ。整理整頓がいきとどき、不要なものは目につかず、清掃もしっかりされてるみたいで埃一つ見当たらない。日本にいたころは役所とかあまり行ったことなかったけど多分こんな感じだと思う。荒事斡旋中心のハローワークと思って小汚いのを想像していただけに裏切られた気分だ。
ライナスに案内されてギルドマスターの執務室を目指しているんだけど迷いそうになる。通路には何も置かれておらず目印になるようなものはなく、木と石で造られた壁から外の様子を窺うことはできない。最悪闘争の末に逃走するようなことになった場合これはかなりまずい。いざとなったら【個人的空間】で全て吹き飛ばすことになるかも…町中で全裸の逃走は流石に無理があるか...
「マスター失礼します。
ライナスです、リョウ=サクラさんをお連れしました。」
丁寧なノックの後ライナスが用件を伝え執務室の、いかにも偉い人の部屋って感じの重厚な扉を開ける。扉とは反対に執務室の中は必要最低限にしかモノが置かれておらず、質実とした装いで好感がもてる。
「マスターこちらが3級の支援者リョウ=サクラさんです。
リョウさんこちらが」
「ライナスいいわ、自己紹介はわたしが自分でするから。
はじめましてリョウ=サクラ、わたしがサジエラ領のギルドを預かるリーリアンネ=ベレカルレ=マーンスンよ。
この耳を見ればわかるように耳長族よ。
わたしも昔はあなたと同じように支援者をしていたけど縁あって今はギルドであなたたちの支援をおこなっているの。
今日は最近噂のあなたとお話しができると楽しみにしていたの、さあかけてちょうだい。
ライナスはお茶をお願いね。」
「ええこちらこそあなたとお会いできて光栄ですレディ・マーンスン。
まさかあなたがこの領のギルドマスターをされているとは夢にもおもいませんでした。」
170センチほどの身長に肉感的なむちっとした色白の体。特別に乳がでかいとか尻がでかいとか分かりやすいセックスアピールがあるわけじゃないんだけど、なんかこうむしゃぶりつきたくなる体だ。
その体を包む服も女物なんてよくわからんが落ち着いた感じで、体から溢れる暴力的魅力を下品にならないよう上手く抑えている…てか、逆に服が清楚で落ち着いてるからどんな下着つけてんのって想像力が羽ばたいてやばい。
背中まで下ろしてある金髪は指通りよさそうで、本物の金より金って感じだ。そんでもってお顔はなんつーかとにかく綺麗としかいいようがない。切れ長の大きな目、すっと通った鼻梁、小さいんだけどぷっくりとした唇、左目の下の泣き黒子、めちゃくちゃ整ってるんだけど人形的じゃなくてなんかこう生の色気とかゆうのかなんとういうのか…
おまけに匂いが理性をとろかしてくれる。たぶん香水とかじゃなくて体臭なんだろうけど、甘いと酸っぱいを合わせたとういうか非常に言葉にしづらい、とにかくいい匂い。
ハヅキには申し訳ないけど単純に女としての性的な魅力でいえばこの女、リーリアンネ=ベレカルレ=マーンスン間違いなく俺が今までみた女の中でダントツにイイ女だ。俺も男に生まれたからには是非一度手合せしていただきたい。




