21話 ドリガ砦3
お久しぶりです。
よっぽどナイフの毒に自信があるみたいで【カチ割り】を取り上げられただけで縛られもせずに両脇を抱えられて連行されている。まあ実際今は動けないしかなり強力な麻痺毒なんだろう。
いてっ、もっと丁寧に運んでくれ、さっきからそこらじゅうにぶつけてくれやがって…お前らは絶対殺す。
少佐と呼ばれていた小太りは3メートルほど先を振り返らずにずんずん進んで行く。俺の両脇を抱える兵士も無言で小太りの後を追う。拷問するってことは血の処理や声を漏らさないようにってことで地下室とかそのへんだろうな、階段を下りてるし、3階より下ってことは間違いないだろう。地下室はあとあとめんどいし、やるなら1階だな。
全身に魔力を巡らせる。制御できない量を、暴発させてしまうほどの量を。
世間一般の魔法使いは魔法を発動させる際、呪文や魔法陣を使用する。俺にはよくわからんけど魔法ってのはただ呪文を唱えるだけや魔法陣に魔力を流すだけでは発動しないそうだ。
発動には起こす事象の明確なイメージと細やかな魔力制御が必要になる。言い換えれば極度の集中力が求められる。したがって、激しく動きまわったり、傷を負っていたり、極度のストレスにさらされたりと心身に異常がある場合は発動することができない。
また魔法の習得には長い時間が必要であり、体を鍛えることもなく魔法の勉強一筋に打ち込むことが多いらしい。普通、魔法使いと呼ばれる人間は若くても30歳を過ぎている。つまり魔法使いは運動のできない虚弱貧弱がり勉ヤロウというわけだ。
三角馬を駆り単独で鉈一本を振り回し敵陣に突入する俺はどう見ても魔法使いには見えない…小太りには見た目で騙されたけど今度はこっちが度肝を抜いてやろう。まあ気づいた時にはバラバラになっているだろうけど。
長い階段を下り終えようやく1階に到達する。壁にぶつけられること8回、蹴られること4回、殴られること7回…いたかった、すごくいたかった。
でも我慢した。
でももう限界。魔力を維持することにも、この状況に耐えることにも。
痛みを、怒りを、魔法に変えて解き放つ。
【個人的空間】発動。
俺を中心に円状に爆炎が蹂躙する。
上下左右の区別なく、人も物も関係なく薙ぎ払う。
両脇を固めていた兵士は自分の死に気づくこともなく四散する。
小太りは歴戦の勘かこちらを振り向くも一瞬で炎に飲み込まれる。驚愕に見開かれる目、笑わしてくれる。周辺にいた兵士も気づくこともできず、ただただ吹き飛ばされる。木造の砦はきしみを上げながら爆散し炎上する。
気分、超爽快。人も物も俺以外全て吹き飛び燃え上る。
老師の修行で一度に込められる魔力が1.5倍増加したことで破壊の密度、範囲ともに大幅に向上した。
さすがに全魔力の5割弱をつぎ込んだため連発はできないけど十分に切り札となってくれる。
っと流石にそろそろ離脱しないとやばいか、砦が崩れてきた。いくら頑丈に造っても内部から爆発されたら流石にもたんよな。
「き、貴様、【爆殺】か。よくも、よくも殺してやる。」
びっくり小太りが生きていた。
あの爆発で生き残るとはぶ厚い脂肪は伊達じゃないな。
「殺してやるとは物騒だな。あんたらがここに砦でなんて築くからこんなことになったんでしょう。それにしても今のでよく生きてるね。」
「ハザムの、息子の仇っ!死ね」
全身大火傷の上、左手が吹き飛んでるのに元気よく突撃してくる小太り。
目は血走り、額に血管を浮かべ、喚き散らす口元には泡、誰がどう見てもイケナイ薬をキメタ変質者さんです。
気持ち悪いので
ボン ババン ポン
【静かな花火】をプレゼントすると避けることなく直撃して腹に大穴を開けてぶっ倒れた。どう見ても瀕死なんだけど血をゴポゴポ吐きながら俺への恨み言を元気よく喚き散らかしていてホラーなのかシリアスなのかギャグなのかよくわからん。ほぼ全裸で仁王立ちする爆弾魔に、瀕死で絶叫する小太りの被害者...シュール。
たぶんだけど推測するに、【エクセラの戦い】で俺が殺した兵士の一人が小太りの息子だったらしい、どうでもいいけど。
生き残りの兵が集まってきてもめんどいし、そろそろまじで砦が崩壊しそうだしお暇しますか。
「いい加減うるさいよ、死んでな。」
【カチ割り】が取り上げられたんで小太りの頸椎を踏み砕いて止めをさす。死ぬ最期のときまで俺への恨みを垂れ流し続けた根性は敵ながらあっぱれだが、あまり気持ちのいいもんじゃない。血走った目も見開かれたままで、死体なんか見慣れてるし、作り慣れてるけど結構こわい。
「【カチ割り】」
左手の指輪に魔力を込めて愛鉈の名を呼ぶと20メートルくらい離れた瓦礫の中から頼りになる相棒が飛び出して俺の左手に収まる。
【カチ割り】唯一の特殊効果【アポーズ】。本来投擲用の槍なんかにつける効果らしいけど、半径30メートル以内なら、ポイントである魔具の指輪目がけてすっ飛んでくる。爆炎に巻き込まれたのに傷一つついていない頑丈さには惚れ惚れするけど、俺の魔法がしょぼいと言われてるようで少し悔しい。
小太りの首を回収して離脱する。【個人的空間】のおかげで出口に迷うことはない。石や鉄で補強された木造の壁には大小多くの穴が開いている。
砦の破壊、指揮官の抹殺、多数の兵士の殺傷、十分に依頼は達成しただろう。
毒の影響で本来の半分の力も出せないけど身体強化で無理やり底上げして全力で走る。あの“くそ女”のおもちゃをやっていたおかげで毒にはある程度耐性があるし回復も早いけど流石に今戦闘になったら並の兵士相手でも苦戦は必至で、複数に囲まれるなんてことになったらあっさり殺される自信がある。あの爆発で全ての兵が死ぬか動けないほどの重傷を負っているなんて都合のいいことはないだろう。なんでとにかく全力で走る。
「逃がすな!なんとしても殺せ、少佐の仇を殺せ!」
「「「おおおーー!」」」
ほらやっぱり。砦の外で警戒でもしていたのか、無事なヤツラは結構残っているみたいだ。何人いるかなんて後ろ振り返る余裕もないからわからんけど、追い付かれたら確実にアウト。ああもういやだ。とにかく走るしかない。
林まであと何百メートルだ...?
駆ける一歩にいつもの力が入らない、速度も全然上がらない。おまけに一歩進むだけでバカみたいに体力を消耗する。さっきから何度も腰が抜けてこけそうになっている。装備を吹き飛ばして普段より身軽になってるはずなのに...
まじでやばい。
追いかけてくる兵士たちの足音は確実に距離を詰めてきている。矢やら魔法が飛んで来ないのはありがたいけど、このままじゃ林に逃げ込む前に追い付かれる。
いっそ【個人的空間】で吹き飛ばすか…いや無理だ。やったところで全員仕留められるわけじゃない、数は減らせても魔力が無くなれば抵抗することもできず殺される。
ここが俺の最期か…
ブルルララァアア
息も絶え絶えでネガティブ思考まっしぐらの俺の横を黒い閃光が駆け抜ける。
「なっ!?」
「うおおお」
「ぎゃあああ」」
絶対絶命の危機に愛馬コクオウがかけつけてくれた。振り返ると勢いそののままに突撃したコクオウが兵士も騎馬も関係なく粉砕している。体当たりで吹き飛ばされる者、角に貫かれる者、蹄で踏みつぶされる者、まさに圧倒的。軍用に調教されている騎馬でさえも恐慌をきたし背中の兵士を振り落している。コクオウも無傷とはいかないようで剣や槍によって血を流しているけど気にする素振りも見せず暴れまわっている。
なんて頼りになるヤツなんだ。俺が女だったら間違いなく抱かれている!
まあ、コクオウはメスなんだけど。
でもこのままじゃコクオウもやばい。敵兵どもも混乱してるけどいずれ立て直されたら、囲まれてやられる。
「コクオウっ!」
ブルルッルラア
俺の意図を正確に理解して最速で駆け寄ってくる。自由の利かない体に鞭打って疾走中のコクオウに飛び乗る。
結構な出血にも関わらず全速に近い速度駆けるコクオウ。後ろを振り返ると追撃しようと騎馬をなだめる敵兵の姿、これならなんとかなりそうだ。
書き方がいつもと違うかもしれません。
どうすれば臨場感がだせるのか...
説明くさくなっているかも...




