20話 ドリガ砦2
180㎞/h=3㎞/m=50m/s。
我が愛馬コクオウの瞬間最高速度。正確な測定器具なんてないからザックリだけど測定してみた結果だ。しかも装備もあわせれば100キロを楽に超える俺を載せてこの速度だ。地球にいたころのうろ覚えネット知識によれば、競走馬で最高75㎞/h、最速といわれるチータでさえ110㎞/h、人間で40㎞/h程度。この世界の人間は地球のそれより魔力のおかげか頑丈で身体能力も高めだけどそれでも50㎞/hを超えることはないと思う。まあ俺ならガチガチに身体強化をすれば80㎞/hくらいで走れるけど...
「コクオウよろしく頼むよ。あそこまで全力でかっとばしてくれ。」
ブルルルゥウ
元気な返事をありがとう!
コクオウに跨り、身体強化を施す。ここから砦まで目算で500m、コクオウなら約10秒で到達する。たかが10秒だが180㎞/hで駆ける馬上の衝撃、空気抵抗は半端ない。
おまけに俺の馬術はおせじにも上手いなんていえない、なんとか乗ってるって感じだ。
「行け!」
林から全力で飛び出すコクオウ。急激な加速に身体強化を施したにも関わらずふり飛ばされそうになる。整備されていない地面をものともせず更に加速。間抜けな盗賊どもの屍を軽々飛び越えて砦に迫る。遠目からみた感じは大きなログハウスって感じだったけど近くで見ると鉄やら石やらで補強されていて物々しくまさに砦って感じだ。
三階にいる弓兵が慌てて矢をつがえようとしているけど、遅い。うちのコクオウはそんなにとろくないんだよ。
ブラァアア
雄叫びとともに放たれた3本の角は詠唱中の魔法使いともたつく弓兵1人の腹を打ち抜き沈黙させる。軽装のヤツラには間違いなく致命の一撃だ。厄介な魔法使いを消してくれるとは素晴らしい。俺はしがみついているだけで必死なのに、全力疾走中に攻撃までこなすなんてどんだけハイスペックなんだ。後で腹いっぱいリンゴを食わせてあげよう!
仲間をやられて恐慌をきたす連中をしり目に疾走を続けるコクオウ。砦まで残り20メートルくらいのところで一際強く踏み込み跳躍する。
俺という荷物の重さを感じさせない力強くも軽やかなジャンプは高さにして6メートル、距離にして15メートルくらいか。
急激な視界の変化に一瞬体がすくんでしまうが愛馬がお膳立てしてくれたこのチャンス、モノにしないと主人として顔向けできない。
こわばった体に喝をいれて素早く態勢を入れ替える。鐙から足を外して、コクオウの大きな背中をしっかりと踏みしめる。足の強化を重点的に施し気合を込めて跳躍する。
「だりゃっ!」
距離にして5メートル、高さにして1メートルを跳ぶ。
無理な体勢、不安定な足場では身体強化をしていてもギリギリだ。
両腕を顔の前で交差させて、体を丸めて1個の砲弾となって突撃する。
どかんっ
「うがっ」
コクオウと俺の跳躍に茫然としていた間抜けな弓兵をクッション代わりにするもまともに受け身もとれず壁に激突する。めっちゃ痛い。
巻き込んだ弓兵は結構かわいい女の子だったけどカエルみたいに潰れてしまった。装備込みで100キロを超える俺の体当たりなんてほぼ交通事故だしかわいそうなことをしてしまった。もっとキレイに殺してやればよかったな。
女弓兵の持っていた矢が右肩に刺さってしまった。動くことは動くけど...まあなんとかするしかないか。
「はーい、セルゼルス帝国のみなさんこんにちは。
ここはサンシスコ王国の領土知ってた?
まあ知ってても知らなくてもいいんだけど、不法にここにいるみなさんには罰を受けてもらいます。」
【カチ割り】を抜いて切りかかる。
弓兵どももバカじゃないらしく、短剣を抜いて応戦してくるがたいしたことはない。動きもとろいし力もない、おまけに狭いせいか碌に連携もとれていない。実に楽な仕事だ。一対一を4回繰り返してサクッと終わらせる。彼らにとってこの場における正解は俺を迎え討つことではなく応援を呼びつつ即座に撤退することだった、教えてやらんけど。
「コクオウ!俺は大丈夫だ。終わるまで下がってろ。」
賢い愛馬は了解とばかり嘶くと林まで退却していった。これで安心して暴れられる。
砦の外に陣取っていた兵士たちが俺を目指して階段を駆け上がってくる。室内や上の階にいた連中も戦力は俺だけと見たのか殺到してくる。わざわざ自分たちから死にに来てくれるとはご苦労なことだ。一網打尽にさせてもらおうかな。ちょっと危ないけど...多分大丈夫...だと思う。
踊場から砦内部に潜入すると小太りのおっさんが喚き散らしている。侵入者を始末しろーとか早く儂を守れーとか、多分こいつが指揮官だな、腕は立ちそうにないけど。
生け捕りにするか殺すか迷うところだ。
連れて帰ったらボーナスが出ると思う。
でも面倒だし、どうすっかな。まあ迷っててもしょうがないしとりあえず確保だ。
ダッシュで一気に距離を詰めて、動けなくするために膝を狙って前蹴りを繰り出す、が空をきる。小太りの外見に反する敏捷な動きで躱して反撃までしてきた。相手を舐めすぎたみたいだ。みっともなく喚いていたのは無能な指揮官と俺を油断させる演技だったわけだ。短剣による突きは素早く頬を浅く切り裂かれた。
「ほうこれを躱すか、なかなかにやるな。しかし...」
「!?」
全身から力が抜ける。
毒か?
「意識があるだけたいしたものだ。部下の礼もせねばならないし聞きたいこともある。
楽に死ねると思うなよ。」
「がっはっ。」
動けないのをいいことに殴る、蹴る好き放題やってくれる。決めた、絶対にぶち殺す。
「少佐ご無事ですか?
...侵入者を捕えられたのですね。警戒は続けておりますが付近には確認できません。」
「そうか、先ほどの突撃もこの者の指示であろう。
捨て駒によるこちらの戦力確認といったところか...下衆なことをしてくれる。
ひき続き警戒を怠るな。
この者の尋問は儂が行う。地下室を使うので用意しておけ。
それと弓隊を弔ってやれ。」
「はっ。」
拷問するのはいいけどされるのはイヤだな...




