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18話 実戦復帰

【マーマン】体長100~130センチほどの手足を備えた魚型の魔獣。ランクはD-。淡水、海水を問わず、水があれば生息可能。通常20~30匹程度の群れで活動している。雑食だが肉を好む。手足に鋭い3本の爪が生えており麻痺毒を有する。鋭く強靭な牙を有しており木造船なら食い破ることも可能。非常に獰猛で獲物に対しては群れで襲い掛かる。場所により体色は異なる。全身が粘液に覆われており、これにより水中での抵抗を減らし素早く泳ぐことができる。また短期間なら陸上での活動も可能で、水辺に集まる生物に襲いかかることもある。ただし陸上では水中と比較して動きも悪く脅威度はコボルト(E+)程度。討伐する際は水際にエサをまき、陸上に上がってきたところを狙うことが推奨される。優れた個体は口から水弾を飛ばして攻撃してくることもある。魔結晶は30匹に1匹程度の割合で取得可能。有用な素材としては肉、爪、牙、皮そして全身を覆う粘液を生成する液の腑挙げられる。グロテスクな外見に反して肉は脂ののった白身魚のような味で人気が高い、液の腑を加工して作られる油は革製品用の高級ワックスとして重宝されている。皮は水に強く合羽やテントに使われる。


シギャアアアアア シャァアアアアアア


 魚の癖にでかい声よく鳴くな、耳がいてーよ。

 おいおい、借り物の船を喰うんじゃない。

 20匹ほどのマーマンがピラニアのごとく襲い掛かってくる。大き目の釣り船を借りてきたけどそろそろ沈みそうだ。泳いで帰るのは勘弁してくれっとっ。


ボン パン ボボン パン


 【静かな花火】を発動。狙いは適当でとにかくマーマンがいるっぽいところに投げまくる。狙いが適当なため直撃は少ないがプカプカとマーマンが浮かび上がってくる。いわゆる“ガチンコ漁”だ。原理はよくわからんけど水中の獲物を気絶させることができる。10匹ほどが力なく水面を漂っている。仕留めたわけじゃなくて気絶させただけなんで、投網を打って回収する。全身がヌメッとした粘液に覆われてるんで、手が汚れてしまった。生臭いし、マジで最悪だ。


ドン ドドン


 うおっと、水弾飛ばしてきやがった。危ねーな。俺なら直撃してもめっちゃ痛いで済むけど、これ以上船に穴開けられたらマジ沈んでしまう。濡れるのは嫌だけど覚悟決めるか。


 手早く全裸になって湖に飛び込む。透明度の高い水中は視界がよく30メートル程の距離があるマーマンの群れの姿をはっきりと見ることができる。手足があるでっかいピラニア、昔仮面のバイク乗りにこんな敵キャラが出てような気がするな。


 マーマンどもはエサが自分の領域に落ちてきたと興奮して突っ込んでくる。メチャクチャ速い。水中でまともにやりあったら抵抗の一つもできずにやられること間違いない。まあまともにやらないんだけど。


 全身に魔力を巡らせる。身体強化中の現状に更なる魔力を上乗せする。

 きつい。コントロールが利かない。

 過剰に込められた魔力が肉体という檻から解き放たれようと暴れまわる。

 まだ、まだだ。マーマンの群れとの距離10メートル、7メートル、3メートル…っ今!イメージは“拒絶”、誰も何も俺に近づくな、みんな消えてしまえ、昔の、奴隷時代のことを思い出しながら、怒りを、憎しみを込めながら全身の魔力を一気に解放する、【個人的空間】。

 魔力を圧縮して、憎しみや怒りを糧に爆炎を付与して全身から解き放つ、俺の奥の手。キリングゾーンは俺を中心に半径15メートル程度で、圏内にいればトロルレベルの魔獣でも一撃で殺傷するが魔力の消費が激しくて頻発できない。しかも全身から解き放つため装備もいっしょに吹き飛んでしまう、つまり強制的全裸発動魔法のため、人目のあるところでは使用が難しい。

 不本意ながら俺につけられている二つ名【爆殺】と【鏖】はこの魔法に由来する。戦争に駆り出されて、敵の部隊に包囲されてどうしようもなくなり【個人的空間】を発動して敵部隊に大打撃を与えてことなきを得たんだけど、敵部隊の中に生き残りも何人かいて、降伏するそいつらを口封じにブチ殺したら物騒な二つ名をつけられた。あの時は恥ずかしさからくる焦りのため周りが見えてなくてとにかく必死だった。涙を流して許しを乞う敵を有無を言わさず殺害する様を、味方に目撃されているのに気付かないくらい必死だった。若気のいたりってきっとああいうことだと思う…

 

 辺り一面にマーマンだったモノの欠片が漂っている。透明度の高かった水は血でにごってしまった。血の匂いで他の魔獣を呼び寄せても面倒なんでさっさと肉片を回収してしまおう。無傷で目標の達成、復帰一戦目にしては上々の滑り出しじゃないだろうか…あっ船が……






◆◆◆◆◆


「はい、確認しました。マーマンの群れ討伐達成お疲れ様です。報酬の金貨5枚になります。

 …怪我の方も完治されたようで安心しました。」


「どうも。しっかり休んだお蔭か以前より調子がいいくらいです。

 早速で申し訳ないですが次の依頼紹介してもらっていいですか?

 3か月も働いてなかったんでちょっと金欠気味なんですよ。」


「わかりました、それでしたら4級以上の方……」


リョウ=サクラは淡々と依頼の手続きを済ませて去って行った。その姿から達成感や気負いを感じることはできない。


マーマンの討伐、6級以上なら誰でも一度は受けたことがある依頼だろう。陸上におびき寄せることができれば比較的簡単に討伐することができる。

 しかしそれは陸上で及び少数のマーマンと対峙する場合だ。通常ギルドの魔獣に対する評価は個の単純な戦闘力、発見の難しさ、生息地域、魔結晶の取得率等を勘案してつけられる。つまり魔獣一体についての評価となるわけだ。

 しかし魔獣によっては群れで行動するものも多く、個と群ではその脅威度は跳ね上がる。マーマンの群れの討伐、それも浅瀬での“釣り”ではなく沖合での水上での討伐、その達成困難度はB-ランクの魔獣の討伐に等しいとも言われている。実際サビラの町から出された依頼はこの2か月間誰にも見向きもされなかった。破格の報酬にも関わらずにだ。

 冒険者が集まらないため領軍から討伐隊が派遣されるも成果を挙げることなく甚大な被害だけを出して逃げ帰ってきた。この困難な依頼を彼は短期間でかつ外見上消耗した様子もなくあっさりと達成してしまった。

 おまけに休むことなくドリガ砦の調査及び殲滅に向かって行った。セルゼルス帝国との国境付近に築かれたこの砦には少数ながらも腕利きがつめているらしく斥候に向かった兵士、冒険者は一人も帰ってきていない。普通であれば二の足を踏むところだが、特に気負うこともなくあっさりと行ってしまった。規格外という他ない。


 もし彼がドリガ砦まで陥としてしまうようなことがあれば、領主との面会の場を設けねばならないだろう。人格面に不安がありこれまで領主、ギルドマスターとの面会は実現していなかったが、ここまでの功績を挙げてしまえば、優秀な人材に目がないお二人の我慢も限界を迎えてしまうことだろう。私にできることは何が起こっても対応できるよう準備しておくことだけだ。


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