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17話 暗殺者と後始末

「たた頼む、見逃してくれ。ザブに強請られて仕方なく金を融通しただけなんだ。まさかあんたを狙ってるなんて知らなかったんだ。

 か、金ならいくらでも払う、だから見逃してくれ。」


 成金臭い悪趣味な部屋でバルック商会会頭ポロポンゾ=バルックが肥え太った醜い体を懸命に縮めながら往生際悪く命乞いしてくる。頼みの護衛をあっさり皆殺しにされればそりゃこんな醜態晒してしまう気持ちもわからんでもないが、自分だって今まで何人も邪魔な人間を消してきたんだろうから、逆の立場になる覚悟くらいしておけっての。


「そんなわけないでしょうバルックさん。ちゃんとザブくんから教えてもらったんだから。それにわざわざこんな場所まで用意して夜遅くまで報告待ってるくらいだから、俺の首が届くの楽しみにしてたんでしょ?

 ざーんねん、首だけじゃなく体ごと来ちゃったけど。

 金で命を買いたいならあきらめなよ、金貨の100枚や200枚なんかじゃ見逃さないから。

 だからさっさとこの件に関わったあんたの商会の関係者全員の名前を教えてくれよ、そうしたら楽に殺してあげるから。意地はっても痛い思いするだけだよ。

それに喋らないなら俺も自分を守るために商会関係者はもちろんだけどあんたの家族、親族、愛人みんな殺すから。えーと確か最近孫と愛人に子供ができたんだよね、喋らないんならかわいそうだけどその子らもきっちり殺すから、よーく考えて。」


「なっきき貴様それでも人間か!殺してやる、必ず殺してやげはっ」


「だから殺されるのはあんただって、立場をわきまえてよ。

 喋らないなら面倒だけど本当にあんたの関係者皆殺しにするから。」


「げはっ、げほっ、はーはー、言えば他の者は…」


「手を出さない、約束するよ。別に殺しが楽しいわけじゃないし。そもそもそんな大人数殺すなんて手間なんだよ。

 ただ嘘だと判断したらその時は必ず皆殺しにする。」


「…ジャイギルとミロッソルだ。」


「ジャイギルとミロッソルね…サラサどう思う?」


 影のように俺の背後に控える専門家に確認する。病み上がりで不安があったため呼んだ暗殺の専門家集団【這い寄る蛇】の暗器使いサラサ。170センチの長身にスレンダーな体型の暗殺者は、


「嘘はついていない、でも必要なことも言っていない。その二人じゃ大きなお金を動かせない。たぶん帳簿役のバリランゾ=バルックも関わってる。」


 サラサの口からバリランゾの名前が出るとバルックの顔色が変わる。痛みと恐怖で蒼白だったそれから、死人のような土気色に。こいつ本当に商人かよ、表情にですぎだろ、ポーカーフェイスって知ってますか?

 たぶんビンゴだ、名前からして息子だろう。必死に隠してたんだろうけど残念。這い夜蛇の情報収集力はこのサレムの町のほぼ全てに及んでいる。


「ダメじゃないですかバルックさん、俺は関わった全員の名前を教えてって言ったよね?嘘はついてなかったから皆殺しは勘弁してあげるけど、あんたには苦しんで死んでもらうから。」


「っぃぎぎいいぃいい、あぐぅうう。

 や、やめてくれ。悪かった、許してくれ息子は、息子だけわああああ」


「見逃すわけないでしょ。」


 バルックの右目を刳り貫く。眼球は意外に頑丈で指を突き入れるぐらいでは潰れずコロコロと床を転がる。血で人差し指がべたついて気持ち悪い。バルックがギャーギャー叫んでうるさいけど悲鳴が外に漏れることはない。ご丁寧に防音効果のある魔具を設置しているからだ。おおかた後ろ暗い密談や敵対者の尋問にでも使ってたんだろうけど、そのせいで助けが来ないのは皮肉な話しだ、まあ俺は助かるからいいけど。


「それじゃサラサは今名前が挙がった3人の始末を頼む。久しぶりに体動かしたせいか疲れたよ。」


「わかった。」


「気をつけてな。

 ああそれとラミラの状況確認してくれるか。大丈夫だと思うけど、念のため。」


「……ん、ん……わかった。

 下っ端を一人消したって。それから上役も判明してこれから消しに行くそう。

 では行って来る。」


 淡々と返事をして音も立てず仕事に向かうサラサ。大き目な商会の幹部3人の暗殺なんてそれなりに難しい仕事だと思うけど、まあ、あいつなら問題なくこなしてくれるだろう。ラミラの方も順調みたいで何よりだ。それにしてもやっぱり二人の魔法は便利だな。電話のないこの世界で通信ができるなんて、状況によっては切り札になるよな。


 体がかなり鈍ってる。拷問、移動、戦闘と少しこなしただけで息が上がる。護衛と戦ったときなんてイメージどおりに体が動かなくて攻撃をもらいかけたし…勘と筋力を戻すの辛そうだな。特に右手がやばい、力が全然はいらない。老師曰く多少時間はかかるけど後遺症もなく元に戻るそうだけど、現状日常生活に支障はないけど戦闘にはついてこれないって感じだな。まあ今の自分を認識できただけよしとしますか。


 


 リハビリがてら右手でバルックを責ていたら力加減を間違えて殺してしまった。どうやら力が入らないだけでなく、コントロールも効かないみたいだ。まあ時間をかけすぎて不足の事態を招いてもなんだしこんなもんでいいでしょう。金目のものをいただいて失礼しますか。




 治療院に戻ると、老師たちはまだ練習を続けいていた。曾孫ちゃんたちは目をギラギラと輝かせながら老師の指示に従って破壊と治療を繰り返している。

 絶対にされたくない。

 死ぬより辛いとはああいうことだろう、まあ、賊どもの自業自得なんだけど。

 挨拶をしてから部屋に戻る。久々に動いたんでほんとに眠い。20日近くお世話になった部屋とベッドに愛着すら感じる…退院するときベッドだけでも買い取ろうかな。


「おかえりなさい、リョー。珍しくお疲れじゃない?」


「…っ、ラミラか驚かせるなよ。まじでビビったわ。」


「油断しすぎ、あなたらしくないわね。

 依頼は完了よ。記録係長のヤンナック以下部下3名きっちり消してきたわ。

 情報を流していた証拠も見つけたから見つけやすいところに並べて置いたわ。」


「ギルドで関わってたのは3人か…まあ妥当な数字だな。他には多分いないだろうな。」


「失礼ねっ、ちゃんと体に訊いたから間違いないわよ。とにかく依頼は完了よ。」


「そうだな、恩に着るよ。金はお前のところのボスに渡してあるから受け取ってくれ。またなにかあったら頼むよ、サラサにもよろしく伝えてくれ。」


「もうそんなこと聞きたくてわざわざ来たんじゃないわよ。

 わかってるでしょ?ねえさんも今こっちに向かってるわ。」


 妖艶な笑みを浮かべ迫ってくるラミラ…エロすぎる。サラサと同じ顔、似た体形だけど、姉とは違い感情の起伏が激しく、表情もコロコロと変える。暗殺者としてはどうなのよ思わんこともなけど、腕の方は一流、ちなみにアッチの方も一流。


「いやまだ怪我が治りきってないし、疲れてるし、眠いし、ここ治療院だっむぐ。」


 言い訳を重ねていると口を塞がれる。


「女に恥をかかせないでよ。仕事の後だから昂ぶってるの。

 あたしとできる男なんてあなただけなんだから光栄に思いなさい。

 それにあなたも…溜まってるんじゃない?

 ハヅキさんばっかりじゃなくてあたしの相手をしてくれてもいいでしょ。」


「ラミラ抜け駆けはだめ。わたしがくるまで待つ約束したはず。」


「…ちっ。

 お早い到着ね、ねえさん?」


 いつのまにかサラサまで部屋の中に。いやお相手するのはやぶさかじゃないけど体力的に…


「リョー、わたしから…」


「先に着いたのはあたしよ」


 無事今夜を乗り切れるか俺…






◆◆◆◆◆


サレムの町だけでなく、サジエラ領、サンシスコ王国全土で有力商会として名を馳せたバルック商会会頭ポロポンゾ=バルック氏が所有する別宅で死体となって発見された。

別宅ではバルック氏の他に護衛が6名死体で発見された。

バルック氏の遺体には痛めつけられた痕が残っており、怨恨あるいは商売上のトラブルが原因と考えられる。

目撃者がいないこと、証拠が残されていないこと、屈強な護衛が無力化されていること、氏にくわえられた拷問の痕跡から犯人は相当の腕利きでかつプロあることが予想される。


バルック商会では他にもバルック氏の息子バリランソ=バルック、幹部のジャイギルとミロッソルの二人も他殺体で発見されている。


わずか一夜で大商会の幹部が4人殺害されたことから、組織的かつ計画的犯行である可能性が極めて高く、今後も警戒が必要となる。特にライバル商会の動向については注意が必要である。

また市場の混乱、特にバルック商会が扱っていた鉱石、鉄製品の価格、流通量については要警戒。




支援ギルド記録係長タルオシ=ヤンナック、受付ミーメ=ゲンス、引き換え場査定員タリム=ドルゴの3人がそれぞれ自宅において他殺体で発見された。

ヤンナック記録係長には情報の密売容疑がかかっておりギルド公安部で密かに内偵中だったが、今回の事件で遺体とともに不正の証拠も発見された。遺体のそばには血で書かれた「死人に口なし」という文字が残されており、犯人側からこれ以上ギルドの情報が流通する心配がないというメッセージかあるいはこれ以上の捜査は無駄であるという挑発と推測される。

ミーメ、タリムの二人についてはヤンナックの元で情報密売に関与していたのではないかと推測される。

3名の遺体は激しく損壊しており、握っていた情報についても全て犯人に渡っていると考えられる。

犯人の目的は、情報の奪取、口封じ、報復等推測できるが確かなことは不明である。ただし手際から判断してプロの犯行であることは疑いようがない。


バルック商会幹部殺害事件とギルド情報流出犯殺害事件はいずれも同日深夜に起こっているため、2つの事件の関連性も考えられる。ただしいずれも目撃者、証拠等は残されておらず明確な関連については不明である。


今後は今後はギルド内の諜報組織の強化、情報管理体制の強化、町の警備体制の強化及び、領主との密接な協力関係の構築が望まれる。





支援ギルド ギルドマスター報告書 ライナス=クールガ作成より一部抜粋


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