14話 真夜中にこんにちわ
難産でした
殺せる。
やっと殺せる。
リョウ=サクラを殺せる。
兄貴の仇を俺の手で殺せる。
仲間たちの仇を、憎い仇を殺せる。
兄貴があのくそヤロウに殺されてから2年、俺は耐えた。
耐えに耐えた。
仲間から腰抜けと煽られても、恩知らずと虚仮にされても耐えた。
気のはやった仲間は止める声も聞かず、あいつに挑んで、それで死んだ。
仲間を殺されても俺は耐えた。
耐えに、耐えに耐えた。
あの、リョウ=サクラのくそヤロウをこの手で殺すために耐えた。
あのくそヤロウは強い。
癪に障ることに、それこそバケモノみたいに強い。
俺たち盗賊団〝町の狐“を一人で壊滅させるくらいに強い。
俺じゃ逆立ちしても勝てねぇ。
だから俺は耐えた。
ハラワタが煮えくり返りそうになりながら耐えた。
あいつを、あのくそヤロウを確実に、俺の手で殺すために耐えた。
兄貴は孤児だった俺を拾ってくれた。
流行り病で親父もお袋も、生まれたばかりの妹もあっさり死んじまった。
誰も助けちゃくれなかった。
ゴミを漁れば邪魔だと殴られ、路地裏で寝ていると臭いと蹴られた。
飯も食えない、寝るところもない、着るものもない。
知恵もない、力もない、6つのガキが一人でどうやって生きていける。
腹が減って、傷だらけで、死にかけだった汚いガキだった俺を兄貴は拾ってくれた。
飯を食わせてくれ、手当てをしてくれ、寝るところをくれた。
仲間を与えてくれ、居場所を与えてくれ、そして兄貴は〝俺の兄貴“になってくれた。
生きるための力もくれた。
生きるために、盗みも殺しもなんだってやった。
そりゃ世間様に胸を張れるようなことじゃねぇ。
恨みも買うし、他人を不幸にする。
いつかは捕まる、殺されるかもとも思ってもいた。
兄貴もそんなこともあるだろうと言っていた。
もし自分が捕まり殺されても復讐なんかするなとも言っていた。
でもダメだった。
本当に兄貴が殺されるところ見ちまうと、あのくそヤロウを殺すことしか考えれなかった。
あれから、町の狐が壊滅してから、兄貴が殺されてからの2年間。
リョウ=サクラを殺すことだけを考えて生きてきた。
あいつを殺すために鍛えた。
あいつを殺すために調べた。
あいつを殺すために網をはった。
それが今日、みのる。
あのくそヤロウに商売の邪魔をされた商人を唆して、金を手にいれた。
あのくそヤロウに恨みを持つ人間を調べ、人を集めた。
ギルドのバカに金を握らせてヤロウの情報を仕入れた。
トロルの討伐に下手をうって大怪我を負ったらしい。
動くこともままならないようで、代理の女が手続をしたみたいだ。
やるなら今しかない。
どこで寝込んでやがるかなかなかつかめなかったが、ようやくわかった。
フーとかいうじじぃがやっている治療院。
おあつらえ向きに、人通りの少ない寂れたところだ。
絶対に殺してやる。
「ザブ、ねぇザブ聞いてる?これから大仕事だっていうのにしっかりしてよ。」
「ああ、すまんな。どうも入れ込んでるみたいだ。」
「もう、本当にしっかりしてよ。
今回はあんたの仕切りなんだから。それじゃあ最終確認をお願いね。」
「わかった。
全員で正面から侵入する。一昨日客として行って確認したがたいしたことない鍵だった。侵入してからは二手に別れる。ガンゴラ、アジェック、ベイヤーはじじいと見習いを殺ってくれ。じじいも見習いも二階の自室で寝ているはずだ、騒がせずに速やかに始末し、その後は周囲の警戒を頼む。俺、ナルーカ、ベイオウはリョウ=サクラを殺る。診療所のある一階にいると目星をつけてはいるが、どこにいるかまではわかっていない。都合がいいことに普段の診療に使っていない部屋は少ししかない。見つけるまで虱潰しで探す。怪我人とはいえ十分な警戒が必要だ、三人まとまって探すぞ。
標的を全員始末したら即座に離脱する。
標的はリョウ=サクラと治療院の3人だが、それ以外にも例えば入院患者とか人がいた場合騒がれたり、俺たちのことを見られたら面倒になるので全員殺す。
大まかに流れを確認したが、質問はあるか?...よし、ないようだな。
最後に、二階組は直接リョウ=サクラを殺せるわけじゃないがきっちり自分の仕事を果たしてくれ。あいつを殺すために必要なことだ。自分の手で恨みを晴らしたいだろうがここは辛抱してくれ。〝俺たち“でリョウ=サクラを殺すぞ。」
今回集めたのはいずれもリョウ=サクラに恨みを持つ5人。
恨みはそれぞれだが、奴への憎しみ、殺意は共通している。
いずれも腕は確かで、5級以上の実力者だ。
確実に殺す。
「行動を開始する、いくぞ。」
周辺に人気がないことを確認して治療院に侵入する。
鍵は事前に確認した通りありふれたもので簡単に開錠できた。
二階組とは分かれて普段の治療で使われていない部屋を探す。
薄暗い治療院の中を息をひそめて探る。
襲撃されるなんて考えていないみたいで防犯設備の類もなさそうだ。
一階にいなければ俺たちも二階に行かなければならないところだったが、運よく一部屋目でリョウ=サクラを見つけることができた。
息を殺し、物音を立てないよう近づく。ナルーカとベイオウも同じように進み、三人で寝ているヤロウを取り囲む。暗闇ではっきりとは見えないが情報通り大怪我を負っているようで、包帯を巻いて薬の匂いをさせている。これから殺されるとも知らずぐっすりと眠っている。二人と息を合わせて突き殺すためナイフを振り上げる。
「死ね」
「お前がな。」
「があああああああ」
「ぎゃあああ」
「いやっ。手が、わ、私の手がっ。」
なんだ、なにが起こった。パンという音がしたと思ったら、ナイフを握っていた俺の手がなくなった。いてぇ、なにがどうなってる。暗闇でわかり辛いがナルーカとベイオウも転げまわっている。
「真夜中にこんにちわ。
人の家に勝手に入ったら犯罪だって教わらなかった?」
畜生が、あのヤロウ、俺たちに気づいていやがった。
殺り損ねた、くそが。
だがまだだ、治療院の奴らのことを人質にとって脅せばまだわからねぇ。
『ぎゃああああ』
『うがあああ』
「なんだやっぱり仲間がいたのか。老師たちにも手をだそうとは、狙いは俺だろ。とことん下種だなお前ら。
まあそれも失敗したみたいだけど、やっぱり備えておいてよかった。
さて、どうやって俺がここにいるって知ったか、いろいろと教えてもらおうかね?」
……兄貴すまなない…仇とれそうにねぇよ。




